文●株式会社ディセンター代表取締役 折原浩
中小企業が経営上の課題を解決し、経営革新を行なう上で、行政からの力強いサポートを得られるのが中小企業新事業活動促進法だ。私がセミナーや数多くの企業のコンサルティングの場で、この法律のメリットを語ったときに、返ってくる答えの多くは「内容は理解できたけど、運用ができないのでは」という不安の声だった。そのようなとき私は「まずはイメージを固めてください」というようにしている。つまり、「経営革新のためのストーリーを思い浮かべる」と言うことである。イメージを固めるにはどうしたらいいのか……、一番簡単な方法は、事例を学んでしまうということだろう。今回は実際に私がコンサルティングした流通業の事例をご紹介する。
首都圏にある食品流通業のさいたま給食配送(仮称・昭和61年創業・年商6億円)は、小規模事業者、小売り、学校給食などに食材を提供する仲卸を営んでいる会社だ。この会社は、売上は横ばいで維持しているものの、3つの問題点があった。①粗利益率が年々落ちているということ、②現在の配送センターでの作業効率が悪く、人件費、光熱費が上がってきていること、③不定期な時間、重労働などが原因で従業員が定着しないこと。これらを踏まえてより業務が効率化できる配送センター(倉庫)を新たに作ることを検討している。
このような場合、国の施策を使うのであれば、まず物流業界の作業効率を上げるという観点から、中小企業流通業務効率化促進法の利用が考えられる。また、人件費や労働条件の改善を考えるのであれば、厚生労働省系の補助金を受けることもできるだろう。とりわけ労働環境の改善を行なう上で、バリアフリーなど障害者を雇用できるだけの環境を整えれば、障害者に関する様々な補助施策なども利用できる可能性がある。さらにこれまで何度か紹介している、中小企業新事業活動促進法も見逃せない。新たな配送センターの建設をはじめとした経営課題の解決策が「経営革新」として認められれば、中小企業新事業活動促進法に基づく中小企業金融公庫の低利融資が使える可能性が高いからだ。
そのためには、経営革新のための明確な目標設定と、その目標にたどり着くためのストーリーが必要となる。そのような時に非常に役に立つのが中小企業新事業促進法の申請なのだ。この会社も、まずは中小企業新事業活動促進法の申請に挑戦している。
さて、中小企業新事業活動促進法の申請の最初の難関は、革新性のある事業を確立させるという点だ。最大の問題点は作業効率が悪いということなので、その効率を向上させる流通拠点の設置がテーマである。まずは、現状を分析してみて、理想的な流通拠点を考えてみる。
現状の流通センターでは、いくつかの問題点があった。まず、最初に気になったのは、導線管理ができていないということだ。物流の経営改善を考えるとき、導線距離というものをまず考える。これは、作業を行なうときに動く距離だ。これが同サイズの標準的な配送センターよりも50%以上長く、作業効率を落とす一因となっていた。また、その導線の通路幅も標準よりも狭い箇所が多かった。
また、台車をはじめとする作業を効率化する器具も不足している。これは、単に購入していないということではなく、上記の導線の道幅や段差など、配送センター自体がそれらの器具を使うことを前提に作られていなかったのだ。これではここで働く従業員にも、力の強い人などの制限ができてしまう。ここも是非解決したい課題だ。
次に、受発注体制に問題があった。電子化が進んでおらず、きめ細かい顧客からの受注に応えるため、多くの従業員を必要としていたのだ。
また、エネルギーの消費量にも問題があった。同サイズの標準的な配送センターに比べ、水道光熱費が30%以上高い。これは、主に熱効率に悪さに起因し、冷蔵設備機器の老朽化だけでなく、配送センター全体の設計などにわたって問題があると考えられた。
これらの問題に対処すべく、3つのテーマで改善を行なった。それらは、まず①配送員の省力化を目的とした施設の設置で、社会的弱者といわれる、高齢者、若年者、障害者でも業務を行なえる環境作りをめざした。次に②受発注の正確さを上げ、さらに省力化できる受発注システムの導入とそれを使うバックアップ作業員の育成。そして、③冷凍・冷蔵庫などの冷気を逃さないことによる光熱費の削減。
まず、①であるが、倉庫のバリアフリー化や冷蔵庫などの棚の改造によって作業効率を改善した。また、指示書の簡略化や機械のボタンの拡大、休憩所の設置なども行ない、身体障害者にやさしい環境整備を整えている。さらには、中小企業流通業務効率化促進法の支援を利用する形で、配送量にあったトラックの設置と配車、トラックの配送ルートの検討なども行なっている。
②のようなITの導入による経営効率は、事前事後の対比が非常に明確になるポイントである。また、その効果測定も簡単かつ明確だ。今回導入した受注システムも、シンプルなもので、他の業界にしてみれば当然すぎるものである。今まで手書きで行なってきた作業を全般的に見直し、営業や受注担当者が受けた受注データをデータベース化し、それを元に原料ごとの発注表や配送時のピッキング表を作成、さらに会計ソフトにも反映されるシステムを導入した。発想的には単純なものだが、これまではデータ転記や発注表をはじめとする諸表の作成に多くの労力を使っていたため、効果は大きいものだった。
③は主にエネルギー削減、環境対応についての処置だ。冷凍庫と外気との間に分配作業室を作る、ドアにビニールシートを取り付ける、冷蔵庫・冷凍庫の温度設定の見直し、菌のコントロール、クリーンリネスなどを行なった。
中小企業新事業活動促進法の申請において、革新性は確かに大事なポイントなのだが、革新性の意味を大きくとらえすぎてはいけない。あまりにも革新性を重視するあまり、「奇抜な」事業計画になってしまっている例も多く見受けられる。
私自身が多くの企業をコンサルティングしていく上でよく思うことは、「しっかり考えて新しいことにチャレンジするが、物事の本質はぶらさない」ことがポイントになるということだ。当然のことをしっかりとやれば経営革新は成功するのだ。そのためには、現状で会社が抱えている問題点をしっかり考えて、それらに対する対応策をきちんと講じることが、革新性の第一歩となる。さらに、それら対応策が実現されたときに、きちんと自社の利益につながるものなのかの検証も重要となる。このようなことを経営計画の中に盛り込んでいけばいいのだ。
今回の企業もそうであるが、この中小企業新事業活動促進法の申請には副産物も非常に多い。この会社の場合では、今までは見逃していた福祉的な雇用も考えるようになったし、配送などの直接部門だけでなく、受発注などのバックアップ部門の効率化によって、より利益を出すことができることを強く認識したことなど、非常に大きかった。これらの施策は、一般的には製造業に向いていると考えられているが、流通業でも非常に役に立つものである。

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