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IT+行政支援で中小企業の経営をサポート IT経営情報局

中小企業新事業活動促進法の活用事例紹介
ITと行政支援の活用で新ビジネスを立ち上げよう

文●株式会社ディセンター代表取締役 折原浩

http://www.decenter-jp.com/

 行政が中小企業の経営革新や新たなビジネスの立ち上げをサポートする「中小企業新事業活動促進法」。いま、中小企業には「施策を充分に活用しながら賢く経営革新をする企業」と「あくまで自分の裁量で、独自に努力し経営革新を実施する企業」の2つの選択肢がある。どちらを選ぶかは、経営者の採択に任されるわけだが、国は中小企業の振興を目指し、大小さまざまな施策を数多く作っている。これらの中には、見逃せないほど魅力的なものもある。中小企業新事業活動促進法の承認を取得し、政府の施策を充分に活用した経営革新を実施しよう。今回は、経営革新のより具体的なイメージをつかむため、ITを使った経営革新の事例を紹介する。

コンサルティングカンパニーとしての挑戦

 今回紹介するのは事例とはいっても、私の経営するコンサルティング会社である株式会社ディセンターの事例になる。わが社には近年、「コンサルティング理論の実例を細かく教えてほしい」というニーズの高まりと、「実践からのノウハウ吸収」という社内的な欲求から、新規事業の設立が求められていた。そこで、かねてから親交のあったフィリピンにおいて、写真をもとにオリジナルの肖像画を描く完全受注性の絵画製作販売事業を始めることにした。

 私が考えていた当初のプランは、コンサルティング先の企業の社長の写真を撮り、それをもとにフィリピンの画家に絵画を描かせるという実にシンプルなものであった。当初は、あくまでも、新規事業のアイデアを具体化させるという目的と、実践コンサルティングノウハウの吸収のために小さな新規事業を成功させることが目的だったのだ。

 新規事業は、独自のアイデアと行動力で実践するものだが、大抵の場合、斬新なアイデアであっても過去に似たようなビジネスを展開し頓挫している実例があると考えた方がよい。特に、この事業の場合、着眼点のおもしろさはあるものの、大きな技術進化を伴うものではないので、過去にトライした事業者がいる可能性が高い。しかも、現在、同様の事業が見あたらないとすると、失敗の実例があるはずだ。そこには、先人の乗り越え慣れなかった問題・課題があると考えるべきである。

写真を元に油絵を完成させる株式会社ディセンターのプレミアムアート事業
写真を元に油絵を完成させる株式会社ディセンターのプレミアムアート事業(画像クリックで拡大)

問題解決ツールとしてのIT

 この「プレミアムアート事業」もさまざまな問題点、困難があった。しかし、「経営革新」という観点からいうと、この「問題」こそが、ある意味で事業成功の鍵であり、「問題解決」自体が経営革新のネタとなる。また、最近の傾向として、その問題解決にはITの活用は不可欠であり、「ITを使うことにより、先人の乗り越えられなかった壁を突破する」と言う考え方こそが、経営革新を発想する基礎的な考え方とも言える。

問題点1 郵便が届かない?
 日本で経営をしていると、想像も及ばないことであるが、写真をフィリピンに郵送する際に、非常に時間がかかる。また、いったん郵送すると、いつフィリピンサイドに届くのか確定できないという問題があった。また、本当に郵便が着くという確証がないという郵便事情の悪さが最初の問題となった。しかし、この問題も、現代のIT技術を使えば、簡単に解決できる。「郵便で送る」という発想をやめ、「メールなどの通信技術を用い、データを送り、現地でプリントアウト」というように考えると簡単に問題解決に行き着く。日本から、フィリピンの郵便をゼロにすることにより、この問題を解決したのだ。
問題点2 意思疎通
 ただでさえ、言語と文化の違う海外事業において、デリケートな芸術を扱うとなると、意思疎通が大きな問題点となる。たとえば、同社で起こっていた問題は、電話でやりとりする際に双方が写真を見ながら話をするのだが、日本サイドの要求がうまく伝わらないということがしばしば起こった。写真管理のミスから、日本サイドとフィリピンサイドが全く違った写真をみて話をしていたことさえあった。しかし、この問題に関してもITが非常に役に立っている。データベースを共有し、これらのミスを撲滅した。つまり、電話で話をする際に、データベースを共有化することにより、画面などで写真を呼び出しながら、ビジュアルで指示できるようになったのだ。このことも、現代の私たちからすれば、別段、珍しいことではないが、過去の先人からすると非常に画期的な技術に見えるかもしれない。
問題点3 コミュニケーション
 数多くの企業が、海外事業の問題点としてあげる項目として、コミュニケーションがある。我が社も例外ではなく、現地スタッフとのコミュニケーションや現地スタッフのモチベーション維持が大きな課題であった。また、現地スタッフとコミュニケーションを取るための通信費用も大きな負担としてのしかかる。そこでIP電話とWebカムを使うようにした。最初は遊び感覚での導入だったが、このことが事業成功のポイントとなり、意外にも大きな成果を上げる。過去の海外事業だと、コミュニケーションツールは郵便やファクスを使った指示書や電話での音声指示が主流であったが、Webカムを使った「顔の見えるコミュニケーションツール」は情報伝達量も多い。たとえば、現地の責任者の顔色やちょっとした仕草などにも多くの情報が含まれる。それらをいち早くキャッチすることによって、問題の早期解決につなげられるのだ。また、文化の違いなどから、現地法人が本社の思いどおりに機能しなくなることは、海外事業においてはよくあることであるが、これは多くの場合コミュニケーション不足が原因だ。そこでWebカムを使用すれば、「顔の見えるコミュニケーション」を低コストで実現できる。実際に毎朝、「おはよう」と挨拶するだけでも現地法人と本社の関係はまったく違ってくるのだ。これによって、現地法人において日本人スタッフゼロという状態を実現できた。
問題点4 顧客への情報提供
 最近食品などでもトレーサビリティと言われる製品履歴情報の重要性が取りざたされているが、「自分たちの製品がどのように作られているかの情報がほしい」という声が顧客から非常に多くあった。この顧客ニーズを満たすため、時間限定であるが、Webによる製作現場のライブ中継を行なうことにした。フィリピンの製作現場の様子をインターネットを通じて顧客に公開するのだ。油絵は製作に平均一ヶ月以上と、時間のかかる商品であるため、顧客としては、自分の注文がどの程度できあがったのか気になるところであろう。また、特に文化的な背景のある製品なので、顧客の製作現場への興味が大きいことに対するサービスだ。
問題点5 参入障壁
 これらのアイデアは新規開発が必要になるような高度な技術を使用せず、IT技術の発展とともに、低コストで実現できるようになったものばかりだ。当然、同じ事業に他社が参入してくることも考えられる。しかし、IT利用における経営革新といえば、「ビジネスモデル特許」。ビジネスモデル特許といえば、ITを利用した経営革新と言えるほど、ビジネスモデル特許との相性はよい。ITを活用した経営革新を行なった場合には、ビジネスモデル特許の利用を検討するとよい。この事業においてもIT技術に加えたさまざまなITを使ったアイデアを包括的にビジネスモデル特許にしている。これは、後から参入してくる企業にとっては大きな参入障壁となる。
フィリピンと日本における発注から納品の流れをITを駆使して問題解決
フィリピンと日本における発注から納品の流れをITを駆使して問題解決(画像クリックで拡大)

支援策の利用

 中小企業が経営革新を実現するにおいて、政府が施行している施策を充分活用することは有意義だ。そのために、我が社もプレミアムアート事業を実現するにあたり、まず「中小企業新事業活動促進法」の承認を得ている。

 中小企業新事業活動促進法の取得にあたっては、差別化と付加価値が最大のポイントになる。この事業の場合、差別化は簡単に表現することができた。インターネットなどで調べる限り、同様の事業がほとんどなかったのだ。ライバルとなる事業は、個人経営が多く、あくまでも数人の画家の作品を売るというもので、組織だってビジネスモデルとして展開しているところはない。それに比べ、付加価値の算定には手間取った。何しろ、完全に分野が違う新規事業なのだ。売り上げもマーケティングから算定するしかない。新規事業の見通しは甘くなりがちなものである。ここでも中小企業新事業活動促進法のメリットは活きてくる。事業をビジネスプランとしてまとめ、申請を行なうという手続きを経ることによって、冷静に財務を考えることができたのだ。

 中小企業新事業活動促進法の承認を得て、最初に利用したのは、国庫金の低利融資だ。中小企業金融公庫から、低利で融資を受けている。これは、民間銀行の金利よりも1%以上も低く、事業の立ち上げ時には非常にありがたい融資制度だ。さらに、上記のビジネスモデル特許取得時には、特許税減免制度を利用しコストを削減しているし、また、特許を申請する際にはさまざまなアドバイスを国から受けている。さらに、IT機器の購入に伴う設備投資減税や、国が主催している「中小企業総合展」「ベンチャーフェア」に出展して販路を拡大できるメリットも大きい。

 もちろん、これらの施策を使うためにはさまざまな基準がある。しかし、中小企業が経営革新をする際に、これらの施策に精通し、充分活用すると、非常に優位に事業展開をすることができる。これらの施策が使えた最大の要因は中小企業新事業活動促進法の承認を取ったことに尽きる。実際に使った施策の多くは、同法の承認がなければ使えないものも多く、さらに承認を取ると、国から施策に関するさまざまな情報が送られてくるとようになるため、施策利用のチャンスもグッと増える。

 また、この承認を得ることによって、第3者の目を大いに使うことができたのも大きなポイントであろう。新規事業は興奮状態のままスタートすることが多いため、冷静に考えれば避けることのできたミスが起きがちだ。そこを承認段階では、審査する行政担当者のアドバイスをもらい、承認後は中小企業振興公社などのコンサルタントにみていただくことによって、個人的なアイデアから、やっと会社として取り組む事業になったと感じている。

 このように単なる中小企業新事業活動促進法は、融資や補助金などを得る資格となるだけでなく、行政や第三者の助言、情報提供などさまざまな面でのサポートが受けられるという大きなメリットがある。新たな事業の立ち上げなどの際には、必ずこの法の承認を取ることを視野に入れて進めたほうがよい。

折原 浩氏
 
著者・折原 浩プロフィール
株式会社ディセンター代表取締役。中小企業を中心に、経営革新(第二創業)、経営戦略、収益力強化、新規事業・店舗開発、ビジネスプランの作成指導など、コンサルタントとして活躍中。
埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、その他の地域をあわせて、およそ150件の中小企業新事業活動促進法(旧中小企業経営革新支援法)の承認申請サポートの実績がある。著書に『中小企業支援策のかしこい利用法―公的機関を使って行う経営革新』(プレジデント社)。

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