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今週のフォーカス
知っておきたい政治のカラクリ

文●三品 純

「学歴詐称」といえば、政治家や芸能人が外国の大学を卒業したことにして、自分の学歴をより高く見せるというのが一般的。しかし、近年、自分の学歴をより低く見せる学歴詐称が世間を騒がせている。今年に入って、大阪市職員約4万5000人のうち約1000人もの職員が学歴を偽っているという衝撃的なニュースが報じられた。いったい何が彼らにウソをつかせたのか。

第18回 大卒資格いりません! 現業公務員が学歴詐称したワケ


965人もの大卒職員が高卒と偽っていた

 1990年代のいわゆる「平成大不況」は大卒資格のメリットを奪ってしまったのか!?

 大阪市は6月27日、大学・短大出身であることを隠して、高卒以下しか受験資格を持たない技能・現業公務員を受験し採用されていた965人の職員に停職1カ月の処分を下した。大阪市は昨年、学歴詐称の職員が勤務していることが発覚したため、詐称を自主申告すれば「停職処分」、市の調査で発覚した場合は「懲戒免職」と通知したところ予想以上の数の職員が申し出る結果となった。規模は小さいものの、同じような事件を青森市営バスや神戸市の教員なども起こしている。なぜ彼らは大卒・短大卒資格を捨ててまで技能・現業公務員の道を選んだのか?

 報道によると学歴詐称をしていた職員の内訳はゴミ収集にあたる環境局が179人、給食調理員や学校校務員を含む市教委事務局が143人、建設局が138人、バスの運転手など交通局で116人と、「現業・技能系公務員」と呼ばれる公務員が多数を占める。なぜ彼らは自治体へ就職するのに学歴詐称ができたのか。

 大阪市はこう説明する。

「技能系職員の受験資格は35歳までです。大卒や短大を卒業して一度就職していても履歴書などに職歴だけを書き、大卒資格を書かなければ高卒になります。また大学卒業後、すぐに受験してもフリーターだったといえばよく、仮に経歴に長期的な空白期間があったとしても厳密な審査がありませんでした。ただ平成14年度以降は高卒以下限定を撤廃し、今では学歴に関係なく受験できるため、14年度以降の受験者に関しては学歴詐称した職員はおりません。また受験時の学歴審査も厳格にし、受験の要綱にも学歴詐称した場合は懲戒免職と明記しております」

現業公務員の驚くべき厚遇

 彼らが大卒・短大卒を隠してまで技能職を志望したしたのはその厚遇のためだ。大阪市技能労務職職員の平均給与は清掃局職員が月額44万300円、校務員が36万8500円、給食調理員が34万300円、交通局が63万8867円。一方、総務省がまとめた「平成18年賃金構造基本統計調査」によると大阪府の民間企業の平均給与は、産業全体で見ると男性が43万4000円、女性が24万9300円。清掃や交通など現業職は民間を上回る給与をえており、女性に至ってはどの産業でも公務員給与に及ばない。また大阪のある市民オンブズマンが市職員の実態を解説する。

「これらはあくまで平均給与の話。バス運転手や環境局では年収1000万円の職員もザラ。学歴を隠してまで希望するわけです。民間の場合は、サービス残業や休日手当の出ない出勤は、それほど珍しいケースではありませんが、市職員は別。条例と市労組という手厚い保護で守られています」

 確かに下手な民間企業よりも、技能労務職はメリットが多い。

昭和50年代から広がった官民所得格差

 こうした“偽装高卒者”の増加した背景にはある傾向があると大阪市人事関係者は指摘する。

「処分した職員の年齢層を分析してみると、いわゆるバブル経済崩壊後の就職氷河期を迎えた平成ヒトケタ代の就職活動組が大半なんです。かつて大卒者が現業公務員を志望するなんて考えられなかった。彼らには下手な民間よりも清掃局や交通局の方がマシという思いがあったのでしょう」

 さらに彼らを技能労務職員へ向かわせたのは官民所得格差の歴史的背景があるのだ。前出の市民オブンズマンはこう指摘する。「好景気の時は民間の方が有利というのはウソ。好況の時は民間と同じように公務員も給与が増えているのです」。

 1970年以降の官民の所得格差を示すこんなデータがある。

 2005年に発表された「地方歳出の見直しによる財政再建」よると、1970 年にはほぼ同額だった地方公務員と民間の年収格差が昭和1975年前後を境に広がり、さらにバブル経済で拡大している。また平成の不況期を迎えても公務員の給与は伸張しており、1992年に地方公務員が約680万円、民間が約500万円だった年収は、10年後の2002年には地方公務員約780万円、民間は約550万円となっている。好景気であれば税収が増えるため公務員の給与は拡大し、不景気になっても民間以上のペースで伸び続けているのである。

かえって負担になった大卒の肩書き

 さらにバブル崩壊後、約10年にわたって続いた就職氷河期に就職した氷河期世代は、高校・大学受験についても厳しい競争を経験した世代でもある。

 ある私立大学を出た愛知県出身の男性はこう嘆く。

「1990年に大学受験の際、聞いたことがない九州や北海道の私立大学まで受けにいきました。そうまでしても大卒という肩書きは魅力に感じていたのです。結局、中国地方のある私大に入学したのですが、その当時ですら就職時に母校の名前を出してもまったく通用しませんでした。ある大手企業に入社説明会を希望したところ、“必要な方だけご案内しております”と門前払いです。今回の事件で高卒と偽った人も出身大学の肩書きがかえってお荷物だったのでしょう」

 高卒と偽った職員の裏側には、優遇されてきた地方公務員と不毛な学歴信仰があった可能性が高い。批判される地方公務員の厚遇と広がる官民所得格差。ただし自治労など組合に保護された地方公務員の権利は強く、根深い。格差社会と言われながら、官民所得格差についての議論は与野党共に放置したままの感がある。実態に即した制度改革が求められる。

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