文●三品 純
いよいよ迫ってきた7月の参議院選挙。今回、最大の争点になるのは、連日報道されている「消えた年金問題」であろう。公的年金保険料の納付記録の不備で生じた年金問題が、自民党、民主党それぞれの思惑を受けながら、どのような形で勝敗に影響を及ぼすのだろうか
5000万件もの個人記録が基礎年金番号に書き換えられず“宙に浮いた”存在になった公的年金。被保険者からの問い合わせが殺到したことを受けて社会保険庁は24時間体制の記録相談フリーダイヤルを設置するなど対応に当たっている。
同庁の6月12日の発表によると、加入者からの相談電話数はフリーダイヤルを設置した11日8時30分から24時間の間、46万9448件寄せられ、相談員が応じられたのはわずか1万6979件にとどまった。これについて社保庁はフリーダイヤルの電話数を増やし対応していくという。
しかしある社労士はこう憤る。「コールセンターのオペレーターを一般の派遣会社から募集しているのですよ。職員ですら判断不可能なケースもあるのにごく普通の派遣社員が対応できるとは思えません。しかも社保庁と全日本自治団体労働組合が職員の労働条件を優遇する覚書を交わしていたことも発覚しています。私も一部を見せてもらったが、あまりにずさんなもの。たとえばオペレーションに関わる一日の仕事量は5000タッチまで。これは文章量に直すと約2000文字程度です。しかも45分を1操作時間として、この作業が終わるとパソコンから離れる時間を作るとか、一般企業では信じられない内容です。あげくの果てに自治労の幹部が会見で、こうした取り決めが労働者の権利擁護に一定の効果をもたらした、と発言した時は耳を疑いました」
一方、報道によると政府は12日、過去の納付を証明できない被保険者のために、年金支給の可否を判断する「第三者委員会」の概要を固めている。同委員会は総務省に本部機能を持った委員会を設置し、全国50カ所にある管区行政評価局などの出先機関で審査する体制を進めているという。ただし本当に消えた年金記録がこうした対応で解消されるか先行きは不透明。そもそもなぜこうした不祥事が起こってしまったのか?
以前の公的年金は保険料の納付状況などによって管理が異なっていた。このため転職や結婚によって複数の年金手帳を保持する人も多く、その記録はトータルで3億件に及んでいた。このため、1997年1月に被保険者一人ずつに年金番号を付与し、記録統合を進めることになった。この基礎年金番号統合の時期に入力ミスやずさんな管理で記録紛失が発生したと考えられており、「昭和30年代から問題があった」と年金問題に詳しい全国紙記者は指摘する。
「昭和32年から手書きで管理されていた年金記録を、磁気ファイルへの入力を開始したのです。ところがこのファイルへの書き込みはカタカナ入力だったため、漢字の読み方を誤入力したのです。このため古くから相当数の記録ミスがあったと考えられます。安倍首相は一時期、97年の基礎年金番号導入時の厚生大臣だった民主党・菅直人代表代行の責任を追及する構えを見せましたが、前述した30年代からの背景があったうえ、与党内部からも“見苦しい”“どのみち基礎年金番号統合は必要だった”と批判され矛先を収めました」
7月の参院選を控え、両党の思惑も見え隠れする対応だが、あるフィナンシャルプランナーは「今回の問題で被保険者も真剣に年金に向き合う時代が来た」という。要するに被保険者も自分の年金納入状況に敏感になるべきというのだ。
「90年代に入ってから年金制度は“経過措置”を重視して進められてきたのです。例えば1994年の改正では、60歳代前半の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢を2013年までに段階的に60歳から65歳に引き上げることが決まりました。また2000年の改正によって老齢厚生年金の報酬比例部分を2025年までに段階的に60歳から65歳に引き上げるなど、段階的に改正してきたのです。高齢化社会が来て、保険料が少なくなると予想していた社会保険庁は少しずつ年金の受給のハードルを上げています」(同フィナンシャルプランナー)
この経過措置に被保険者が混乱してきたという面は否めない。だからこそ年金制度にしっかり向き合うべきだという。さらに前出の社労士は日本の年金制度の根底にある問題点を「請求主義にある」と指摘する。
「請求主義とは“自分からアクションを起こさないと年金を受給できませんよ”という意味です。でも、被保険者の意識は高くない。たとえば投資信託や金融商品を使って自分の年金は自分で稼ぐ確定拠出年金も、転職者の6割に当たる約7万人が積立金を放棄したまま放置しているといいます。自分の年金は自分で守る、という意識を被保険者もしっかり持つべきです」
確かに権利意識の低い日本では、年金に対する意識改善も必要かもしれない。ただ、いずれにしても制度改革は絶対条件。今後の見通しについて前出の全国紙記者は「社保庁を完全民営化してやる気のある職員だけ働いてもらおうというのが自民党の改革案。それに対して民主党案は税務署と社会保険庁を一元化し、“歳入庁”を作り税金を一本化するという公務員ありきという案。年金問題で与党を追及している民主党ですが、この改革案を見ている限り、支持基盤である労働組合を意識しているとしか思えません」と説明する。
いずれにしても年金問題を単なる政争の具にするのは控えるべき。ましてや支持団体の思惑が絡むようでは改革も期待できないだろう。また我々、被保険者にとっても今回の年金記録紛失を契機に意識改善が必要なようだ。