文●三品 純
全世界で650万以上のユーザーが集うバーチャルワールド「セカンドライフ」。アディダスや日産自動車などの大企業がセカンドライフ内にショールームを開設しており、ビジネス界からも注目を集めている。この仮想空間に初めて日本の政治家が事務所を構えた。3D Webの世界は政治も変えていくのだろうか?
「OECD加盟国中、日本の公共事業費は一番高いにも関わらず教育費、医療費がもっとも少ない。日本も教育、医療分野の予算を増やすべき」
とある会場でこう話すのは民主党・鈴木寛参議員。その会場とはWeb上の3次元バーチャルワールド「セカンドライフ」で開設された“バーチャル事務所”である。
6月2日、民主党・鈴木寛参議員は同サービス上では日本の国会議員初となる「すずかん演説会@セカンドライフ」を開催した。黒いスーツにオレンジのネクタイのアバター(自分が操作するWeb上のキャラクター)で登場した同氏は、ストリーミング音声を通して教育・医療分野の政策論を訴えた。
鈴木氏は「セカンドライフは、世の中を明るくするためのソーシャルムーブメントにとって最適な場所です。この世界から現実の生活を変革しようという議論が起こるかもしれません」と意義を強調する。今回のバーチャル演説会を契機に、政界も本格的なデジタル時代を迎えるかもしれない。
旧通産省時代から情報政策に関わってきた鈴木氏は現在、民主党・インターネット選挙活動調査会長を担当。日本のIT戦略、情報政策を熟知する人物だ。
「10年前から3次元世界やそこで活用されるアバターの実証実験を続けてきました。いずれ現在のような時代を迎えると予想していたが、実際に一般社会で利用される時代を迎えたことは非常に感慨深い」とふり返った上で、セカンドライフなど3次元サイバー空間の登場を「情報社会史的に見るとインターネットの第3段階」と位置づける。
「第1段階のナローバンドの開通で文字や画像の送受信が可能になり、次のブロードバンドの普及によって動画まで閲覧可能になったため情報量が飛躍的に増加したんです。そして第3段階の3次元サイバー空間はナローバンドやブロードバンドと同様のインパクトをもたらすはず」(鈴木氏)。そしてこうしたインターネットの進化が政治にも好影響をもたらすというのだ。
民主党は2006年6月、鈴木氏らが中心となって「インターネット選挙運動解禁法案」を提出。選挙活動のネット活用を求める声は多いが、いまだ実現には至っていない。
いまは選挙運動期間中にホームページを立ち上げたり、書き換えることは、新たな文書図画の頒布とみなされ公職選挙法に抵触する。ところが、今年4月に実施された東京都知事選の際に、動画共有サイト「You Tube」内で特定の候補者の政見放送が投稿された。多くは「公職選挙法に抵触する」として削除されたが、この動画データは名前を変えてYou Tube上に残り続け、事実上“野放し状態”となった。この通り、「ネットと選挙」の関係はグレーゾーンの領域が多い。だからこそ鈴木氏はいち早い法整備の必要性を説く。
「インターネット選挙活動の導入で、より政策中心のマニフェスト型選挙が可能になり、より高度な民主主義が実現できます。特にセカンドライフのようなリアルタイムの世界は最適でしょう。6月2日の演説会後、チャットで質疑応答を行ないましたが、多くの方から様々なご質問をいただきました。彼らは自分の言葉で、自分の考えを直接ぶつけることで、私の政策や主張を見極めようとしていました。つまりネット選挙が解禁されれば、有権者は自分自身で直接候補者と対話し、判断できるのです」(鈴木氏)
ネット活用で候補者・有権者の双方向のコミュニケーションがある選挙活動が実現できるというのだ。さらに候補者、現職の政治家にとっても「メリットは計り知れない」と鈴木氏は指摘する。
「チャットで質疑を受けた時に、そのレベルの高さに驚きました。当初はセカンドライフやWebについての質問が中心だろうと予想していたのですが、実際に質問があったのは教育や医療分野の高度な政策論でした。ふつう我々が政策を立案し、法案化するときに関わるメンバーはせいぜい15人程度。もしセカンドライフ内で日常的に有権者と議論できれば、有用なブレーンになってくれるでしょう」。セカンドライフが政治家の“仮想シンクタンク”になる可能性も秘めているのである。
今後もインターネット上の政治活動を重視していくという鈴木氏はこんなプランを明かす。「教育分野ではイジメから子供を守るバーチャル“駆け込み寺”を検討しています。今の子供たちは悩みを相談する相手が不足しています。セカンドライフ内で相談所を作って、様々な人からアドバイスをもらえるようにしたい。また、医療分野では“セカンドオピニオンクリニック”の開設を考えています。実際にセカンドオピニオンの先生を前にすると緊張や萎縮して、十分に症状を伝えられない患者さんが多いと聞きます。そこでセカンドライフ内で医師と患者がやり取りできる場を設け、コミュニケーションをとってもらうのです」。
今年に入り急速に普及が進むセカンドライフ。エンターテイメントやビジネス面が強調されがちだが、鈴木氏が指摘するよう政治や社会への影響を与える可能性は高い。目下、グレーゾーンとなっているネット上の選挙活動だが政治家、有権者、従来存在した両者の距離感を縮めるためにも早期の法体系整備が求められる。
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