文●三品 純
原油高騰でガソリンなどの値上げが続く中、バナナやオレンジなどの輸入フルーツの値上げが続いている。一部報道によれば、今年の1~3月のオレンジ輸入量は昨年同時期の6割程度まで落ち込んでいる。また、一部のビッグブランドのオレンジ飲料なども値上げが発表されたが、これには地球にやさしい「バイオマス燃料」が関係していた。
今月1日から大手飲料各社は100%飲料の値上げに踏み切った。一部報道によるとキリンのトロピカーナ「ピュアプレミアム」など、個人用と業務用のオレンジ飲料を1リットル約24-70円値上げする他、森永乳業、明治乳業らも果汁飲料を値上げしている。唐突なこのジュース類の値上げ、一体何が起こったのか?
石油業界関係者はこう解説する。
「バイオエタノールの影響ですよ。今、ブラジルやアメリカではバイオエタノールの原料であるさとうきびやトウモロコシへ転作を進めており、オレンジ畑が縮小したため高騰したのです。かつてアメリカのある高官が“トウモロコシは有用な燃料だ”と発言しましたが、ジュース値上げの背景には、食用ではなく燃料目的に変わった農業の影響があります」
石油関係者が今回の値上げの原因としてあげた「バイオエタノール」といえば、「バイオマス燃料(バイオ燃料)」の一種。バイオマス燃料は植物などの有機物から生成するため、化石燃料と異なり環境負荷が少ないと言われている。
実はこうした農作物由来の製品の値上げはジュースだけに限ったことではない。マヨネーズメーカーのキユーピーも6月出荷分からマヨネーズの値上げを決定。家庭用500gのサイズで319円が約350円になるようだ。マヨネーズ値上げの裏にもバイオエタノール需要拡大でトウモロコシ由来の食用油の高騰という背景があったという。本来、環境と人を守るはずの燃料が食卓にしわ寄せを与えた格好だ
日本でもバイオエタノールを活用した混合型ガソリンの試験販売が4月27日から関東地域の約50カ所で始まった。この混合型ガソリンは、バイオエタノールから合成した「ETBE」という物質を、約7%の割合でガソリンと混ぜたもの。日本ではまだETBEの混入方式がスタートしたばかりだが、アメリカ、ブラジル、ヨーロッパの一部ではこのバイオエタノールをそのままガソリンと混合するスタイルだ。環境省は将来的にバイオエタノールの直接混合型への変換を主張するが、一方の石油業界はETBE化して混入する方式を訴え、現在対立が続いている。
「ETBEの方がガソリンの品質を安定するというのが業界の言い分。一方、環境省は他国で直接混入型の車が走っているから問題ない、と反論しています。どちらにせよ今後、エタノールが需要拡大し、作物に影響するのは間違いない。もともとアメリカやブラジルも“自国で消費する分が余ったら日本にも輸出する”という程度の態度でしたが、エタノールが売れると分かったため、他作物からサトウキビ畑などへの転作が進んでいます」
燃料か食料か? この事態だけ見ると生産者は燃料を選択してしまったようにも見える。
日本国内でも植物を主原料とするバイオマス燃料を導入、研究・開発が進行中だ。というのも京都議定書で締結した二酸化炭素の削減目標数を達成するため2002年、小泉政権時代に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定。バイオマスを「再生可能な生物由来の有機性資源で化石燃料をのぞいたもの」とし、バイオエネルギーを推奨している。
バイオ燃料を燃焼させると、二酸化炭素を排出するが、それまでの光合成の過程で吸収した二酸化炭素量と相殺して考えることができる。そのため、燃料のライフサイクル全体で見れば、大気中全体の二酸化炭素量の増減には影響しないと考えられる。この考え方を「カーボンニュートラル」と呼ぶ。地下資源が乏しい日本にとっては、環境にもやさしく理想的な燃料といえるだろう。このため同戦略の下、現在、多くの企業、各自治体がバイオ燃料の研究開発を進めているのだ。
バイオ燃料の主原料となる素材は植物に限らず、建設廃材、食品廃棄物、家畜などのふん尿でもいい。建設廃材ならばエタノール、食品廃棄物やふん尿などならば発酵させてメタンガスが生成できる。例えばメタンガスを作り、これをエネルギーとして発電施設を作ることも可能。となると食用の農産物を燃料用に流用するという“バチ当たり”なマネはしなくてもいい。ところがそう一筋縄にいかないところが、バイオ燃料の難しさなのである。
岡山県真庭市はNEDO技術開発機構と共同で、木質由来のエタノールの開発を進めている。地元の開発プラント関係者はこんな話をする。
「当地は森林地帯として古くから林業がさかん。周辺には木材加工所もたくさんあって材料も収集しやすい。しかも高速道路があり、県内の臨海工業地帯にも1時間以内で移動できるため立地条件に恵まれています。ただしこれくらいの条件が整っていても、木質エタノールは成功して採算ベースギリギリのラインでしょう。そして地域で生産し、消費する“地産地消”が大前提です。均一に規格された木質エタノールを全国販売するのはハッキリいって不可能」
どうやら木材由来のエタノール生産も簡単ではない。またバイオ燃料導入を視野に入れる某自治体職員も頭を抱える。
「バイオマス・ニッポンでは環境施策を推進する自治体に補助金を交付するので、カネ目当てや町おこしの一環でバイオ燃料を推進するところもあるんですよ。ところがメタンガス由来の発電システムを購入したものの、発電に必要なふん尿の量が回収できず、頓挫した自治体も一部にはある。木質、ふん尿、食品廃棄物にしても十分な量が回収できなければ採算ベースに乗らないのですね。また避暑地を持つある自治体がバイオ発電のためふん尿を集めたところ、別荘の住民から苦情が出て、観光客が遠のいたという話もあります。よほど地域の産業や地勢、インフラがマッチしないとバイオ燃料の開発は難しい」
仮に全国から木質、ふん尿、食品廃棄物などを一括して一箇所に集められればバイオ燃料も効率化できるだろう。しかしそのようなことは運搬コスト、手間などを考えればまず不可能である。
環境技術分野で各国から評価の高い日本であってもバイオ燃料の実用化までには障害条件が多い。一見、理想的なバイオ燃料だが、国内での完全な普及はまだ遠い先の話のようだ。