文●三品 純
長寿番組『笑点』に登場する落語家が喫茶店で「株券が電子化されるって本当ですか?」と話しているCMを見たことがあるのではないか? 2009年1月をメドに上場企業の株券すべてが電子化されることを伝えようと、証券各社を中心に様々なキャンペーンを繰り広げている。株券電子化から透けて見える高齢化社会の問題とは。
2004年6月に公布された「社債、株式等の振替に関する法律」、いわゆる株券の電子化(ペーパーレス化)が2009年1月から施行される予定に伴い、現在、政府や証券保管振替機構、各証券会社などが株主に電子化の手続きをするよう呼びかけている。
株の電子化は株式を発行する上場企業を対象に実施。ペーパーレス化することで「従来、印刷会社に出していた株券の印刷代が不要となり、これだけでもかなりのコスト削減ができる」(某上場メーカーIR担当者)など、評価する声も多い。
また、内閣府大臣官房政府広報室によると同法によって「株券の発行、運搬、保管コストの削減」ができるだけでなく、株主にとっても「株券の紛失、盗難、偽造が防止できる上、売買の際に株券の受け渡しが不要となり、取引に必要な時間が短縮される」などのメリットがあるという。最近、急増している会社の合併、企業再編が起こった際にも、電子化していれば手持ちの株券を発行会社に提出し、書き換えるといった煩雑な作業も不要となる。
この通り、ペーパーレス化によって株の管理・運用がスムーズに利便性が高まるようだが、その一方自宅などで保管している株券、いわゆる「タンス株」の多くが電子化の手続きを済ませておらず、場合によっては株券が無効になる恐れもあるという。
日本証券業協会が今年2月までにまとめた調査によると現在、会社や自宅などで管理されているタンス株の総数は741億5657万8390株で、そのうち231億5970万6383株が個人所有のもの。また株主数だと全株主数1394万5168人中、個人株主は1334万3267人。タンス株を所有する個人の投資家がかなり多いことが分かる。
「現在、放置されているタンス株を金額に換算すると約20兆~30兆円。証券会社などがパンフレット、またはインターネット上での広報活動を続けているが個人投資家の動きは鈍い。デイトレードなどが盛んな現在と違い、90年代初頭までは運用のためではなく資産として株を購入するケースが多かった。おそらくこうした投資家がそのまま高齢化し、株も眠ったままになっているのではないでしょうか。法人の大口顧客の場合は証券会社や信託銀行の担当者がそれなりにケアをするでしょうが、個人投資家は意外と放置されやすく長い間タンス株になっているケースが多いので注意すべきです」(都内証券会社営業担当者)
電子化への手続きは証券会社を通じて、証券保管振替機構(ほふり)に株券を預ければ特別な手続きは必要ない。売買も自由だ。仮に電子化への手続きが行なわれなかった場合でも、自動的に証券保管振替機構の「特別口座」という口座に管理される救済措置がある。そういった意味ではたとえ手持ちの株券を電子化しなくても、本人名義になっていれば株の権利自体は保護されるのである。
ところが、注意しなければならない点がある。特別口座から新たに別の口座に書き換える手続きを踏まなければ、特別口座では株券の売買ができないという制限があるのだ。さらに、仮に、手持ちのタンス株が肉親など自分以外の名義のまま特別口座で管理された場合は、株主の権利すら失う可能性も出てくるのである。
「電子化された後に名義変更されていない株が特別口座に管理されてしまうと大変面倒なことになります。この場合はたとえ親の株であっても、相続人との関係を示す資料、死亡証明書、遺言などが必要になり、名義変更などの手続きが非常に面倒なものになります」(同証券会社担当者)
相続、譲渡する上で必要な名義変更は証券会社、信託銀行など「株式名簿管理人」への届け出が必要となる。ただしここにも高齢化問題で悩む投資家がいる。名義人が認知症などで自ら手続きの作業ができないケースがあるのだ。
都内在住のある女性(70代)はため息混じりにこんな話をする。
「ウチにも夫名義で約10社分、時価総額にして約1000万円分のタンス株があったのですが、2年ほど前から主人は認知症でしたので扱いに困っていました。しかも株券が電子化になるというので、もう私では扱えないと思い売却しようと考えました。ところが主人は困ったことに書類に字が書けないのです。代筆はダメで、しかも足も不自由な主人は証券会社に直接行くこともできません。そこで証券会社の方に相談して、今回だけの特例として、特別に電話で済ませていただけることになりました。先方が“売りますね”と言ったら主人に“ハイ”とだけ言わせるというやり方です。これは問題があるでしょうけど、もうこの手段しか処分できなかった」
いくら家族の了解があるとはいえ、こういった所定の手続きを踏まないというのは問題が発生するおそれがある。しかし、株券電子化の認知が高まるにつれ、こういったケースは増えていくだろう。
この女性の場合はなんとか売却にこぎつけたが、こうしたケースは意外に少なくないと前出の証券会社担当者はいう。
「株主が亡くなった後に期限切れの配当金証書が見つかる家庭もあるくらい。窓口に相談に来られますがこればっかりはどうしようもない。高齢者の投資家は意外にずさんな管理をする人が多いんですよ。とにかく名義人変更を早くしておかないと電子化後は本当に面倒なことになります」
約20兆~30兆円分ものタンス株が処理されず眠っている今、株主の高齢化によって放置されているという問題もある。円滑な運用と管理というメリットを持つ株の電子化だが、株主の高齢化問題、健康問題は意外なトラブルになるかもしれない。