文●三品 純
近年、P2Pソフトによる自衛隊員の情報流失が頻発している。今年に入ってもその流れは止まらず、3月30日、海上自衛隊第一護衛隊群の護衛艦「しらね」の二等海曹が、Winny経由で「特別防衛秘密」にあたる機密情報を漏えいしたことが判明した。自衛隊の情報管理は一体どうなっているのか。その実態に迫る。
海上自衛隊の護衛艦「しらね」所属の二等海曹がイージス艦に関する情報を無断で持ち出し、漏えいしていた事件で、3日、その中に日米相互防衛援助協定の「特別防衛秘密」にあたるイージスシステムが含まれていたことが明らかになった。
アメリカが開発したイージス艦を現在、世界で保有するのは日本、スペイン、ノルウェーのみ。ある海上自衛隊幹部OBはこう解説する。
「イージス艦と一口に言いますが、正確に言うとイージスシステムを搭載した艦船のことです。艦船中央の艦橋部分に4面のレーダーが設置されています。これが数百に及ぶ目標物から瞬時に敵を判断し、12個以上の空中目標を同時、攻撃します。また弾道ミサイルをイージス艦のSM3(スタンダードミサイル3)と地上のペトリオットPAC‐3で撃破するBMD(弾道ミサイル防衛)でも大きな役割を果たすのです」。
昨年7月の発生した北朝鮮のミサイル発射でも日本海に展開していた米軍のイージス艦が北のミサイル起動の追尾にも成功しているなど、その防衛能力は世界最高峰とも言われている。
「いわばイージス艦は日本の生命線なんです。それに米軍との信頼関係に基づいて提供されているシステム。例えば韓国などは北朝鮮への太陽政策が原因でまだシステムを提供されていません。だから情報流出などあっては日米の関係性さえ悪化してしまう」(前出OB)
それほどの重要な情報がなぜ容易に流出したのか? 警察、防衛省ら関係者の懸命の捜査が続いているが依然と謎は多い。
事件は今年1月、問題になった二等海曹の中国人の妻に対する不法残留の疑いで、神奈川県警が横須賀市内の自宅を捜索した際、パソコンから護衛艦のレーダーのデータなどが入ったファイルが押収されたことが発端。
しかもこの中国人妻は“いわくつき”の女性。3年前に窃盗で一度、国外退去処分になった後、再び日本に再入国し、同隊員と昨年、10月に結婚している。こうした経緯から中国陣営による女性工作員を使ったスパイ活動という説までささやかれ始めた。
実はこの中国人がらみというのも当局が関心を寄せる理由の一つ。アメリカでも中国系移民グループが約20年に渡り、米軍の技術情報を中国に提供していた事件が発覚。3月28日から、この中国人グループの公判が始まっているが、彼らが中国に送った情報の中にもイージス情報が含まれている。
ある現役海上自衛官はこんな話をする。
「昨年8月、中国や韓国に無断で渡航していた海自隊員が自殺する事件もありました。隊内で中国関連のトラブルが増加しています。また情報流出の経路も不明です。海上自衛隊は一分隊攻撃、二分隊レーダー・情報、三分隊機関科、四分隊補給、五分隊飛行科という編成。問題の二曹はこの三分隊の機関科、つまり艦船のエンジンの管理を担当しており、イージスシステムを扱う立場にはなかったのです」
流出の根源は別の人物だったことが5日に判明する。二等海曹が所持していたデータファイルの中に、イージスシステムの管理の担当者の三等海佐の名前が記録されていたのだ。「この三等海佐と二等海曹は面識はありません。私用PCに保存したイージス情報がファイル交換ソフトWinnyなどで広まったという見方もされていますが、はっきりした原因は定かではない。というのも自宅に資料を持ち込んだ隊員の家族がWinnyをやっていて、そこから流出したケースもあって経路を特定するのはかなり困難です」(同隊員)
今年2月から3月にかけて護衛艦の秘密文書などのデータが、隊員の私用パソコンのファイル交換ソフト介してインターネット上に流出する不祥事が発生。このため防衛省は職場に私用PCの持込を禁じ、約7万台のパソコンを配布するなどの情報管理対策を講じた。こうした中で今回のイージス情報の流出。問題は隊員用PCの配布で対応できるようなことではないのだ。
前出OBはこのように話す。
「防衛省の情報管理の意識はどこかズレています。ただ情報流出は隊員にも同情しうる点がある。自衛隊員は昇進試験のために勉強しようとしても資料や文献の数が限られているんですよ。要するに隊員の人数に対して教材の数が圧倒的に少ない。だから内部文書など自宅に持ち帰ってテキスト化せざるをえない。それがWinnyなどで流出してしまったのでしょう」。
要するに隊員たちが学ぶ環境が整備されていないのである。そのため熱心な隊員ほど情報を持ち出し、流出させてしまう危険性があるというのだ。
4月7日の日経新聞によると防衛省ではこのほどファイル内の情報を自動的に暗号化する独自ソフトを約15万台の業務用パソコンに搭載。これでUSBメモリなどを使ってデータを持ち出しても、ソフト未搭載のパソコンではデータが文字化けして判読できなくなる、というものだ。
ただしこれについても前でOBは「根本的解決ではない」という。
「自衛隊の秘密事項は機密、極秘、秘に分類されていますが、何でも“機密”にしてしまう傾向があるんです。だから機密事項に属する『作戦計画』というものの中にも、実際にはさほど重要ではないものも含まれています。これは、一般マスコミでも容易に想定できる内容なんですよ。だから本当に何が機密で、極秘で、秘なのかきちんと検証してから秘密事項を分類すべき。そうではないとイージスシステムのような『特別防衛秘密』に当たるようなものと、一般人でも想定できる内容のものと重要度が判別できないです。技術的な対策も大事ですが、情報管理に対する意識改善の方が先決だと思います」。
今年1月から省へと昇格した防衛省だが、本質的な管理体制の改革は置き去りになっている印象もある。
情報漏えいを水際で喰い止めるだけでなく、各情報の重要性を組織全体が統一した見解を持つこと。イージスシステム流出という重大な事件が起こった今、実態に即した情報管理対策が求められている。