文●三品 純
新聞やテレビでは報道されていない、ビジネスマンのための政治ニュースの裏側をお送りする本連載。
第2回は、4月8日に実施される東京都知事選挙に立候補した、浅野史郎元宮城県知事を取り上げる。当初は出馬を拒否していたものの、一転、立候補を表明するなど連日メディアを騒がせている。果たして、浅野氏の政治家としての実力とは。
“大型開発の中止を”。
“東京の福祉を立て直して”。
2月25日、都内で市民団体が開催した集会で、参加者たちにこんなプラカードを掲げ、東京都知事選出馬を促された浅野史郎元宮城県知事。2月27日には「思考がフリーズ状態。民主党のスケジュールは関係ない」とし都知事選出馬について明言してこなかった浅野氏だが、翌日に一転、「フリーズからプリーズになった。出馬を前向きに検討したい」と出馬への意欲を示した。
一方、浅野氏をして“チャンピオン”という石原慎太郎現都知事は、3月2日の会見で「お嫁さんが決まってよかった。選挙は1人で戦うものではないから」と余裕の構えを見せた上で「宮城県は借金が増えたみたいだ」と皮肉る場面も。
その浅野氏が今週6日、ついに出馬を正式表明し、石原都知事に挑戦状を叩きつけたのだ。つい最近まで「思考が停止」とまで言った浅野氏、この変節のウラを宮城県知事時代から知る地元紙記者はこう推定する。「彼は“人事についてはウソをついていい”というのが口癖。取材陣をかわしながら動向を見守ってきたのでしょう。それと“地方自治の旗手”と称された浅野氏でも東京での知名度は低い。報道を加熱させることでメディアでの露出を増やし、顔を売りこんでいたのかも」。
出馬表明の裏には「露出十分」という思惑があったのだろうか。当の“地方自治の旗手”こと浅野氏だが、その政策手腕の評価について実は疑問視する声が多い。
「クリーンなイメージの一方、県債約1兆4500億円という負の遺産の張本人」(前出記者)、またある宮城県議の話。「情報公開について浅野氏の貢献度は高い。が、逆にいえば功績はその程度」と地元関係者の評価は辛らつ。一方“その程度”とまで評された情報公開について浅野氏が厚生官僚時代から親交がある人物はこんなエピソードを明かす。
「浅野さんは情報公開について、よく“母ちゃんとどら息子”という例え話をします。従来の政治は息子が母親に1万円くれ、とねだると“ない”とぶっきらぼうに答えるようなものだった。これからは“そんなお金はないよ。財布を見てごらん。なんなら父ちゃんの給与明細も見るかい?”とありのまま見せるべき。すると息子は“俺も家計のために働くか”と考えが変わる。つまり県民に情報を公開することで県政の実態を知ってもらい協力してもらおう、というのです」。
このエピソードどおり、宮城県は全国市民オンブズマン連絡会議による全国情報公開度ランキングでは04年で1位、05年で2位に輝いている。それに対して同調査で、東京は8年連続失格という判定で、実質的にはほぼ最下位。確かに情報公開だけ見ると浅野氏に軍配が上がるようにも見える。
一方、情報公開以外の政治手腕については別の県議は以下のように語る。
「オリンピック誘致が白紙? 大型開発がなくなる? 市民団体がそう要求しているのですか? 浅野さんにそれを求めるのは間違い(笑)。彼は利用実績の少ない石巻港の港湾整備・埋め立て事業を推進しました。これには約1900億円という膨大な予算が組まれています。そして整備された石巻港雲雀野地区の工業用地も買い手が現れず、結局、某製紙会社に1㎡単価2万2000円で売却したのですが、県に入るのはわずか200億円程度。さらに昨年12月、土地購入を希望する企業に提示した単価は1万3000円程度。これでは100億円にしかなりません。浅野氏はペイできない大型開発をやりすぎた」。
また浅野氏が得意とする福祉政策についても同県議はこう批判する。
「『知的障害者施設解体宣言』という方針をぶちまげ、県内最大の知的障害者施設『船形学園』の入所者に自立してもらおうと退所を促しました。確かに彼の言う“ノーマライゼーション”の理念は大切でしょう。ただ社会的なインフラが整っていないので入所者もその家族も戸惑ってしまう。そのため宣言を見直してほしいという要望が殺到しています。また補助金の打ち切りなど問題が多く、物議を醸し出している『障害者自立支援法』についても、“75点の法律だ”と浅野氏は容認する発言をしています。要するに彼の福祉政策は国の方針に従ったものにすぎないんです。ところが厚労省が進める自己責任型の福祉制度に異を唱える市民団体が、浅野氏を福祉事業の推進者と奉るのがあまりに不思議」。
もちろん障害者の自立支援を進めるのは今後の福祉政策にとって重要な課題。だが浅野氏の“急進性”は宮城県政の福祉政策に影を落としたようだ。浅野氏の熱烈な支持者が掲げた“大型開発の中止を”、“東京の福祉を立て直して”という願い。果たして彼が本当に実現できるのだろうか?