心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
注意をすると、すぐに嘘や言い訳でごまかそうとする部下に閉口しています。頼んだ仕事が期日に間に合わなかったことを指摘しても、「忙し過ぎてできませんでした」と、逆ギレ気味に突っかかってきます。素直に反省させるには、どうしたらよいのでしょうか。
部下との言い争いにメリットなし。大人の対応で片付け、次から言い訳の余地のない頼み方を
軽い気持ちで注意したのに、嘘や言い訳をされて怒りが増幅するという気持ちはわかりますが、「嘘をつくな」「言い訳するな」と声を荒げても、部下の士気をいたずらに下げたり、部下との関係を悪化させたりするだけです。ここは怒りたい気持ちをグッとこらえて、大人の対応をしましょう。
まずは嘘をつかれた場合ですが、少なくとも会社にとって実害がないような嘘であれば、寛大な気持ちで見逃してあげるべきです。
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| イラスト 中野スカ |
「嘘も方便」とはよく言ったもので、そもそも嘘をつくということは、心理学ではソーシャルスキルの1つとされ、嘘が上手な人は社会的知能が高いとされています。女性に対する「おきれいですね」というお世辞が、嘘ではあっても相手を気持ちよくさせる有効な手段であることは誰もが知っている好例です。アメリカのディパウロという心理学者が様々な人の日記を分析したところ、人間は平均すると1日に3回も嘘をついているという結果が出ました。
嘘をつく部下は取引先でも調子よくふるまい、人あたりの良い人間だと思われていることも想定されます。ささいな嘘を暴いて自己満足するよりも、「こいつは世渡りの上手なヤツだ」と評価してあげるくらいの気持ちが必要です。
もちろん、単に自分の保身のための嘘で、会社にとって害が及びかねない場合は見逃すことはできません。とはいっても、真正面から注意して部下のやる気を阻害してしまっては会社のためになりません。冗談交じりに「もう少し上手く嘘をつきなよ」くらいの指摘で十分です。
たとえば、「仕事の期日は言われていませんでした」と反論された場合も、部下と同じレベルになって「言った」「言わない」で言い争っては、部下との関係がこじれるだけです。ここは、「それなら次からはメモにとるようにしよう」と引き下がりましょう。
部下との間とはいえ、約束事はメモしておくということは海外では標準的なビジネススキルです。部下に仕事を頼んだときは、部下が手帳に記入するのを確認しましょう。仕事に関することは、“記憶に頼らず記録に残す”が基本です。
仕事が期日に間に合わなかったことを「忙しかったから」と言い訳する部下に対しても、「忙しいのに仕事を頼んでしまって悪かったね」と大人の対応に努めましょう。言い訳の多い部下には、仕事を頼む時点で抱えている仕事の数を確認し、本当に仕事が間に合うのかどうか念押しする必要があります。念押ししておけば言い訳を事前に防げますし、相手も気をつけて間に合わせてくるものです。
ときには「あの時は間に合うと思いましたが、実際に仕事をやってみたら意外と大変で……」と言い訳される場合があるでしょう。それでも怒るべきではありません。「今度は同じような仕事があったら、どれくらい大変かわかるね」とでも諭すだけで許してあげましょう。何度も言いますが、怒ったところで会社にとってもあなたにとってもメリットは何もないのです。自分の感情をコントロールできるということは、管理能力の高い上司になるための大きな要素なのです。
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