心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
部下にとって困難な仕事をやらせる必要があるのですが、なかなか頼みづらく時間だけが過ぎています。あまり強く言うと、最近では「パワハラ上司」と陰口を叩かれかねません。部下に嫌な顔をされずに、それとなく難しい仕事を頼む方法はないでしょうか。
事前に説明して、後で文句を言えないようにしておこう
嫌な顔をされたり、反感をもたれたりしそうな仕事をうまく押し付けるには、頼む前に先に謝ってしまう「事前謝罪法」を使うのが有効です。
「こんなことを頼むと、パワハラだと思われそうで嫌なんだけど……」「オマエが断りたい気持ちも重々承知しているが……」と切り出してから本題に入るというテクニックです。嫌な仕事を押し付けられた部下が言いそうな文句を先に言って謝ってしまうと、逆に相手は何も言えなくなってしまうものです。
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| イラスト 中野スカ |
部下が途中で投げ出す可能性があるならば、事前に「この仕事が厳しいことは分かっている。投げ出したくなる気持ちも分かるが、とにかく頑張ってみてくれ」と言っておけば、部下は「この仕事が厳しいことは、上司も理解してくれている」と意気に感じ、案外投げ出さずにやってくれるものです。
同じ原理ですが、困難な仕事を頼む際には、事前にその仕事について考えうるマイナス要因をすべて打ち明けてしまうことが非常に大切です。心理学で「メンタルセット」呼ばれる手法ですが、あとで部下から「こんな大変な仕事を押し付けて」と恨まれないようにするための重要なテクニックです。 少し大げさなくらい「この仕事はこんなに大変だ」と警告しておけば、トラブルが起きてもたいてい我慢できるものです。実際は思っていたほど仕事が困難でなくても、「意外と簡単だったな」と思われるくらいでちょうど良いのです。
事前謝罪法やメンタルセットの効力は、量販店で買った新品の商品と、リサイクルショップで「中古品なので壊れるかもしれません」と言われて買った商品が壊れた場合の対応を比べるとよく分かります。新品の商品よりも中古品の方が故障する確率は明らかに高いのですが、実際には故障に関するクレームはリサイクルショップよりも量販店の方が多いと言われています。なぜなら、リサイクルショップで買った中古品は「事前に壊れるかもしれない」と事前に説明を受けていたので、壊れてもある程度納得がいきますが、新品の商品は壊れないことが前提で購入していますので、壊れたときの怒りが増幅するからです。
そもそも部下が「パワハラ」と感じるのは、一方的に困難な仕事を与えられ、「こんなに大変な仕事を押し付けられた」と納得いかないと思ったときです。ですから部下に仕事を頼むときには、すべてのマイナス要因をあげて「メンタルセット」しておくと同時に、部下が言いそうな不平を察して先に謝ってしまう「事前謝罪」を行なってさえおけば、「パワハラ」と言われることもなくなるでしょう。
また、部下をその気にさせようとして「君ならできる」「君にしかできない」という頼み方をする上司がいますが、断定口調で話すのは暗に「この仕事は簡単な仕事だ」と思わせてしまうことになります。いざやってみて難しかった場合、「オレならできると言っていたのに」と不信感を抱かせることになりかねません。「君でさえ出来るかどうかわからないほど難しい仕事だが、君にしか頼めないんだ」とでも言っておいた方が無難でしょう。
ビジネスでもプライベートでも何かを交渉するときにあてはまることですが、最初においしいことだけを言っておいてハードルを高くしてしまうと、後で後悔する破目になるものです。後々のことを考えれば、承諾を得るまでは大変でも、最初にきちんとメンタルセットしておくことが肝要です。
余談ですが、結婚生活を破綻させないための最大の秘訣は、結婚相手に過剰な期待をしないことだと言われます。最初からパートナーと本音で話し合いメンタルセットができていれば、末永く幸せな結婚生活が送れることでしょう。
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