心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
優秀でやる気に溢れていた部下が、急に遅刻や欠勤をしがちになり、仕事でも穴を開けるようになってしまいました。今から思うと部下に期待するあまり、厳しい仕事を任せすぎたような気もします。部下への対応の方法と、今後同じようなケースが起きないための予防策を教えてください。
遅刻や物忘れが増えたら危険信号。そうなる前にポジティブ人間に洗脳する
真面目で優秀な部下ほど陥りやすいのが、うつ病です。うつ病は、かつては気分が落ち込んでいる状態が3カ月間続いた場合に診断されていましたが、現在では1カ月続くとうつ病と見なされます。部下がうつの状態にあると感じたら、まずは仕事を減らし、休みをとらせましょう。一度うつ病にかかってしまうと、自力で抜け出すことはできないものです。
また、症状が重いと感じたら病院に行かせるべきです。上司が下手に相談にのってしまうと、かえって「がんばれ」と発破をかけてしまいかねません。うつ病患者にプレッシャーをかけると最悪の場合、自殺に追い込んでしまうケースもあります。
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| イラスト 中野スカ |
部下の遅刻や物忘れが増え、仕事がずさんになってきた場合、うつの初期症状である疑いがあります。やたらに汗をかく人は、自律神経に障害が出ている可能性があります。さらにうつの状態がひどくなると、服装などの身だしなみが乱れてきます。2~3日続けて同じスーツを着て出社してきたり、寝癖の跡を気にしなくなっていたり、肩にフケがたまっていたりしたら、かなり危険な兆候です。
部下がパンクしてしまうのを未然に防ぐには、やはり予防対策と早期発見が第一です。何となく精彩を欠いているな、最近どうも覇気がないな、と感じることが増えたら、いわゆるガス抜きをしてあげましょう。部下になにか趣味があれば、それに没頭できる環境を整えれば済みます。
問題は仕事一筋タイプの部下ですが、「合コンのメンバーが1人足りない。上司命令だから今日は仕事を早く切り上げて参加してくれ」と無理やりコンパに連れ出してみてはどうでしょうか。
カウンセリングの世界で「認知療法」と呼ばれるテクニックを使うと、たった60秒でストレスを解消させることも可能です。これは仕事以外の何かに集中させることで、一時的に仕事のことを忘れさせるというものです。たとえば机からトイレまでの歩数を数えてこさせたり、紙くずがゴミ箱に入るまで投げ続けさせたりといった、簡単なことで結構です。
また、部下に対して上手に声をかけることも、うつの予防に効果があります。たとえば、少し疲れているように見える部下に同情して、「オマエ、最近疲れ気味なんじゃないの? 大丈夫か?」と声をかけることは、実は好ましいことではありません。その一言によって「暗示効果」が働き、「やっぱり自分は疲れているんだ」と余計に疲れを意識させることになってしまいます。むしろ「オマエ若いな、その元気を少し分けてくれないか」と声をかけた方が、「俺って元気なんだ」と部下の元気を引き出すことにつながります。
たとえ疲労の見える部下から「私、疲れて見えませんか?」と聞かれても、「全然見えない。まだフルマラソンでも走れそうだよ」くらい言ってあげたほうが、そのときは「わかってくれない上司だ」と思われたとしても結果的にプラスになります。
また25歳の部下には「25歳ぐらいが一番働ける年齢だ」、30歳の部下には「30歳が働き盛りだ」、35歳の部下には「35歳がもっとも脂の乗った時期だ」と言っておけば、言われた当人も「そういうものか」と思ってしまうものです。部下には日ごろから前向きな考え方を吹き込み続け、ポジティブ人間に“洗脳”してしまいましょう。
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