心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
会社で部下同士が口論を始めてしまいました。この2人は元々折り合いが悪く、一方が相手の告げ口をしてくることもしばしばあります。これ以上関係が悪化すると、今後の業務に支障が出てくることも懸念されますが、上司としてはどのように対処すれば良いのでしょうか?
えこひいきしてしまいましょう。部下のもめ事は引き上げる部下を選ぶ重大な局面と認識すべき
意外にも思えるかもしれませんが、こうした場合は「オマエの方が正しい」と、どちらか一方をえこひいきしてしまうという戦略が最も現実的な対応なのです。
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| イラスト 中野スカ |
まず理解していただきたいのは、どのような聖人君子であっても、10人のうち10人すべての人間から好かれることはできないということです。また、人といえども感情をもつ動物である以上、公平中立を貫き通すことは不可能です。
上司である以上、口論の場合に限らず、一方の企画を採用する場合や人事部に提出する部下の評価など、いずれか一方の部下を支持しなければならない局面は必ず訪れるものです。
こうした状況に立たされたとき、八方美人でいようと「まあまあ、どちらにも言い分があることだし」と優柔不断な立場をとったり、「けんか両成敗だから」などと公平に扱ったりしようとしては、かえって双方の信頼を失い、嫌われることになりかねません。あなたの判断は、当事者2人の部下だけでなく、それぞれの部下の友人や取り巻き連中も注目しています。覚悟を決めて「ついに部下を取捨選択する時が来た。俺はこれから、こいつと共に歩んで行こう」と決断しましょう。
誰からも好かれる上司を目ざし、使えない部下を切り捨てることを怖れていては、せいぜい「まあまあの上司」止まりです。部下からの完全な敬意や信頼を勝ち取ることはできません。八方美人だけは避けたほうがいいでしょう。
では、選び取る部下はどのようにして決めるべきでしょうか。明らかに一方が正しい口論や、一方が優れた企画ならば、疑問の余地はありません。ですが、あまり両者の違いがあるように思えない場合、これから伸びそうな人、自分とウマが合う人、自分が好意を感じている人を選んでしまいましょう。つまり、えこひいきしてしまうのです。
心理学では「好意の返報性ルール」と呼ばれますが、自分とウマが合う、好きだと感じている相手は、同様に自分のことを好きでいてくれるものです。あなたが好意を寄せる部下はあなたに好意を寄せているので、今後もあなたのために働き続けてくれる可能性が高いのです。
えこひいきをしてしまうと、「あの人は○○さんばかりひいきする」と陰口を叩かれかねません。こうした陰口を予防するには、敢えて隠さずに「俺はあいつが好きだ、あいつは嫌いだ」と公言してしまうことです。言い訳めいたことをせず堂々としていれば、「あの人はウラオモテのない人だ」と好意的に評価されることでしょう。また、嫌いだと言われた部下も、「どうせこの上司からは嫌われているんだから」と割り切ることができます。
部下にとって最もストレスを感じるのは、「もしかしたらこの上司に嫌われているのではないか」と不安でいるときなのです。互いに嫌い合っていることがはっきりすれば、それを前提に「会社のために、この仕事だけはきちっとやってくれ」と率直に頼むこともできます。
一方の部下のえこひいきを続けると、派閥の形成につながります。政治の世界だけでなく企業や大学でも、多少の派閥が生まれるのは社会のダイナミズムとして自然なことです。かつて政界では派閥解体論が浮上していましたが、チームの同種性を高めることは生産性の向上につながり、適度なライバル関係が良い意味の活気を生み出すという点から、必ずしも完全否定されるべきものではないと思います。
えこひいきされた部下が周囲から自分の派閥の一員と見なされれば、もはや派閥を抜け出すことは不可能です。より一層自分に忠実な部下になることでしょう。
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