心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
部下が取引先への納期を間違い、会社にも先方にも大きな損害を出してしまいました。上司である私の管理責任が問われることは免れられそうにありません。上司としてどう振舞うべきでしょうか?
部下のミスは自分の評価を高めるチャンス。自ら率先して責任を取ろう
会社に損害を与えるほどの大きなミスを犯した場合、部下自身もショックを受けているはずです。しょげている部下を、それ以上追い込んでも仕方ありません。まずは部下をなぐさめ、励ますことが大切です。「今回の失敗は予防接種のようなものだ。この経験がなかったら、先々もっと大きな失敗をしていたはずだ」などと、部下が前向きに考えられるような励まし方が好ましいでしょう。
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| イラスト 中野スカ |
問題は上司への対応ですが、この場合、自分が部下を守ってやるという姿勢を貫くべきです。率先して自分から責任を取りましょう。心理学では「スライム効果」と呼びますが、部下には厳しく上司にはゴマをするタイプの人間は、上司、部下双方への接し方のまずい人間以上に、最も嫌われるタイプであることが知られています。上司の顔色をうかがいながら、「すべて部下のせいです。自分は悪くありません」と言い逃れすることは最悪の行動だと認識してください。
自分が責任を取ることによって、たとえ一時的に上司のウケが悪くなったとしても、気にすることはありません。人間だれしも、本当に困っていたときに助けてもらった感謝の気持ちは終生忘れないものです。若いときの失敗をかばってくれた上司への恩義も部下の心に残り続けるはずです。あなたの今後を考えた場合、これから社内で付き合っていく時間が長いのは年長の上司ではなく、年下の部下です。仮にあなたが左遷されるような事態になっても、失敗をバネに出世した部下が自分を引き上げてくれることだって大いにあり得る話です。
近年のITを中心とした日進月歩の社会では、仕事に役立つ新たな知識は上司よりも若い部下から得られる機会が増えています。何事も気軽に聞くことのできる関係を部下と築けるよう、日ごろから心掛けるべきでしょう。部下に慕われることは、それによって上司から悪い評価を受けるのを補ってあまりあるメリットが得られるのです。
取引先への謝罪も、上司に対してと同様に自ら進み出て行なうようにしましょう。できれば次回の取引価格を10%値引きするなど、可能な限りの誠意を速やかに示すことが大事です。こうした条件の提示は自社内の調整が難しいと判断したら、まず先方と話をつけたうえで、上司に「このような約束をしてしまいましたので、自分を減給処分してくださって結構です」と説明することも1つの方法です。
では、部下のミスに対する責任の取り方ですが、ポイントとなるのは自分から処罰の具体的な内容に踏み込んで謝罪してしまうことです。上役に対し、自分から「今回の件はすべて私の責任ですので、3カ月間、給料の10%返上致します」と減俸を申し出てみましょう。会社としても、本人から申し出ている処罰に加えて、さらに重い降格人事などの処罰を与えるということはしにくいものです。
こうした責任の取り方をすれば、上手くいけば上司からは責任感の強い人間だと思われ、部下からは頼りがいのある人だと評価され、しかも自分の処罰を限定して身を守るという、3つのメリットを得ることができます。上司と部下が揃ってあなたに関するよい噂を広めてくれるようなことになれば、しめたものです。
口コミで伝わる情報は、社内でも大きな効果があります。しかも情報の出所が上司、部下の両方ともなれば、効果は絶大なものになるでしょう。損して得とれ、との言葉どおりです。部下のミスは、あなたの評価を高める絶好のチャンスでもあるのです。
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