心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職なんかなりたくない」という人が増えているという調査結果もある。しかし、企業である以上、上司や部下との円滑なコミュニケーションは必須。そこで、本連載では上司と部下との円滑なコミュニケーションを実現するため、状況に応じた対応策を心理学者の内藤誼人氏に聞いた。
部下の仕事振りを見ていると、仕事にかける情熱がいまひとつもの足りなく感じます。もっと熱心に取り組むようにさせたいのですが、なにか良い手立てはないでしょうか?
職場はステージ。部下に一流社員の役を演じさせる「名監督」たれ
部下の仕事に対するモチベーションを高めるためには、大きく分けると2つの方法があります。
1つは単純なことで、仕事の権限を部下に完全に委譲してしまうことです。責任が大きくなり、仕事のやり甲斐が増すほどやる気が出るのは必然的なことです。ただ現実には、仕事というものはそう簡単に権限委譲できることは少ないでしょう。
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| イラスト 中野スカ |
そのため2つ目として、与えられた仕事が面白いと思えるように仕向けるという方法があります。たとえば、仕事をゲーム感覚で取り組めるように導いてみましょう。営業の仕事であれば、いかに他人から印象良く見られるかというゲームをしているのだと思わせるのです。少しコツを覚えて結果がではじめ、減点主義でなく得点方式のゲームだと感じることができれば、どんどん仕事にのめり込んでいくことでしょう。
このほか、部下に仕事が面白いと思わせるための有効な手段に、職場を舞台に見立て、「自分は仕事をしているのではなく会社員という役割を演じているんだ」という意識を植え付けるというものがあります。
ディズニーランドでは、従業員のことを「キャスト」と呼びます。「お客さまに楽しんでいただくための演者」であるとの考え方に基づいているのですがキャストの勤務時間を「オンステージ」、勤務していないときを「オフステージ」と呼んでいます。同じ仕事をしていても、自分はゴミ収集の仕事をしていると考えるよりも、ディズニーランドという舞台で来園者を楽しませるためにゴミ拾いという役を演じていると思う方が、やり甲斐を感じるものです。「どうすればお客さまに楽しんでもらえるようなゴミの拾い方を演技できるか」と考えることでしょう。
営業の仕事などをする一般的な会社でも、同様の考え方をすることが可能です。営業担当の部下に、「自分は一流営業マンとして役割を演じている俳優なんだ」と思わせることができれば、今までよりも毎日の仕事を楽しく感じさせられるでしょう。「外回りの仕事をやりたくないのはよく分かるが、ステージの上では楽しそうに営業担当の役を演じてくれ。そうすれば、観客である周りの人たちも喜んでくれるはずだから」「営業を好きになれとは言わないが、好きだというフリをしてくれ」と諭してみてはいかがでしょうか。
会社員を演じるという考え方は、部下を叱咤激励するときにもメリットがあります。会社員を演じる部下を指導する立場のあなたは、いわば映画の監督のようなものです。「営業の下手なオマエが悪い」ではなく、「オマエの営業という役の演じ方がまずい」と“演技指導”すれば、叱られた当人が自分自身の人間性や性格を否定されたと考えない分だけ、あなたの言葉を受け入れやすくなるでしょう。
優れた映画監督は、俳優の演技指導にも優れているものです。前回、良い上司の条件は良い保護者、良い教師になれることだと言いましたが、ときには部下=俳優を演技指導する名監督にもなる必要があるのです。
ただ、心理学者の研究データによると、「やる気」を出せるかどうかは遺伝的な要因が大きく、生まれつき何事に対しても高いモチベーションで取り組むことができる人とそうでない人がいるとされてます。訓練で改善する割合はせいぜい素質の20%という実験結果もありますし、訓練後に一時的にモチベーションが高まっても徐々に元の状態に戻ってしまう傾向にあるとも言われています。ですから新人を採用する際には、学生時代にスポーツや受験勉強などに打ち込んで実績を残すなど、やる気を発揮した経験があるかどうかを重視すべきです。
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