心理学者 内藤誼人
管理職の立場であれば、「部下や上司との調整が面倒」と感じたことが1度や2度ではないはずだ。苦労の割には報われない感のある「管理職にはなりたくない」という人が増えているという。しかし、社内における上司と部下との円滑なコミュニケーションは必要不可欠。そこで、本連載では10の困ったシチュエーションに陥った上司が、部下との良好な関係を実現するための心得を、心理学者の内藤誼人氏に聞いていく。
今年入社した部下は、上司に敬語を使えなかったり、時間にルーズであったりと、社会人として最低限のマナーに欠けています。これまで何度もきつく注意してきましたが、一向に改まりません。一体どのように指導したらよいのでしょうか?
相手を幼児だと思って接するべし
時間を守ることや口のきき方など、当然入社前に身に着けておくべき社会の基本マナーです。そのようなことさえ知らないような部下は、いっそのこと同じ社会人とみなすのではなく、就学前の児童をかかえた親や教師になった気持ちで接してみてはいかがでしょうか。もちろん、本人にそのことを話してしまってはいけませんが。
不幸にもこうした人間を部下にもってしまうと、できて当たり前のことを何度も注意するというエネルギーやストレスが、あなたにとって相当な負担になることでしょう。けれども、部下が原因で常にイライラした気持ちで仕事をしていてプラスになることは1つもありません。最悪の場合、自分自身の健康を損なう恐れもあります。
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| イラスト 中野スカ |
自分自身を守るためにも、その部下は“親にも先生にも社会常識を教えられないまま大きくなってしまった可哀想な人”だと思い、幼い子どもと同じレベルにまで下げて接してあげるのです。相手が幼い子どもであると思えば大抵のことは許してあげられますし、優しい気持ちで丁寧に指導できます。また、できて当然のことを何度も繰り返さなければならなくても「何度も同じことを言わせるな!」「こんな簡単なこともわからないのか!」と腹立たしく感じることはなくなるでしょう。
社会常識さえ知らないような部下は、早く一人前の社員に育てようと思ってはいけません。地面に種を播いたとき、芽が出てくるのが遅いからといって土を掘り返してしまっては、出る芽も出なくなってしまいます。過剰な期待をかけていちいち土を掘って種の様子を確認するのではなく、丁寧に水をやりながら自然に芽が出てくるのを待つことにしましょう。
たとえば、遅刻を繰り返す部下に「どうして遅刻するんだ!」と問い詰める上司がいます。ですが、子どもは親や教師に叱られているとき、問い詰めれば問い詰められるほどうつむいてしまうものです。このような場合、子どもを相手にするように「身支度には何分くらいかかっているの?あなたの最寄駅から会社までは、こちらの乗り換えを使った方が早く来られると思うよ?」と改善方法を示してあげるほうが得策です。また、子どもに対して「もうこれは教えたことだろ」「他の人はできるのに」という言い方も有効ではありません。その人の進むペースに合わせ、長い目で育てる気構えが必要です。
これは新入社員に限った話ではありません。社会常識のない部下には「もう入社3年目だろ」という説教も無意味です。入社当時に5歳だった子どもが7歳になっただけだと考えれば、少なくとも何年経っても成長の見られない部下のせいでイライラを募らせることは避けられるでしょう。 上司と部下との関係は、場合によっては親子の関係、師弟の関係にあてはめてみることも必要です。良い上司は、時として良い保護者、良い教師にもなれるものです。
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