文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
新人を持つ上司や先輩に求められるものは何か。
箇条書きであげていけば、きりがない。
右にあげたのは基本中の基本だが、意外と忘れられやすいのは次のことだ。
かつてプロ野球・読売巨人軍の原辰徳監督が「ジャイアンツ愛」という言葉をつかったが、あれと同じ種類のものだ。仕事愛なんて、演歌みたいで気恥ずかしいという人もいるだろう。仕事はクールのほうがよいと思う人もいるだろう。強制するつもりはない。
ただ、仕事愛を堂々と語れる人、態度で示せる人は、間違いなく部下から信頼される。いま風にいえば、リスペクトされる。
「あの人の姿勢は、まねはできないけど、なんかすごいよね」
「仕事に対する気合というか、情熱が違う。さすがだと思う」
そんなふうに言われる。
私の友人に、自分が製造の一部を担当しているクルマのことを、いつも誇らしげに語る人がいる。自動車の製造工場に勤務している男だ。酒の席でも、話題にするのは会社や上司の悪口ではなく、クルマのことばかり。
「今度のクルマはいいぞ。造っていて、ワクワクしてくる」
一緒に街を歩いていても、往来のクルマばかり見ている。
「お、来たぞ。あれは98年式だ。調子よく走ってるじゃないか。おーい、元気かー!」
大きな声で言って、手を振ったりする。まるで子どものようだ。部下たちは、また始まったという顔で、苦笑いする。中には一緒になって手を振る者もいる。実に素朴な例だが、仕事愛とはこういうものだ。自分が担当した商品に愛着をもち、誇りを感じているのだ。いや、単なる商品ではない。彼にとっては「おれが造ったクルマ」なのである。担当しているのは、製造全体の一工程にすぎない。それでも「おれが造ったクルマ」であることには間違いない。情熱を込めて、一生懸命に打ち込んでいるからこそ、そう言えるのだ。
製造工場ではよく欠勤する者もいて、班長は苦労が絶えないのだが、この男の班では欠勤ゼロ、成績もきわめて優秀だ。「おれが造ったクルマ」を堂々とのろけまくる班長に影響されて、誇りと気概がチーム全体にみなぎっているからだ。
新人と打ちとける時期になると、会社への不満や仕事へのグチをこぼす先輩が増えてくる。酒が入ったりすると、つい嘆き節になってしまうこともある。
「おれたちがいくら頑張っても、上が評価してくれないからな」
「しょせんサラリーマンなんて、こんなものだ」
部下が聞きたいのは、そんな話ではない。働くことへの志であり、未来への希望なのだ。それを堂々と語り、まわりを情熱の色で染めてしまうような人――そういうリーダーを求めているのだ。
かつて私がお世話になった上司は、私が担当した商品(書籍)をもって報告に行くと、目を細めて喜んだ。出来栄えをチェックしたあと、「いいねえ。よかったねえ」と、わが子を見るような温かいまなざしを商品に注いだものだ。それはまぎれもなく、仕事愛のバリエーションだった。この人はこの仕事が好きなんだということが、はっきりと伝わってきた。だから、自分もこの人のようになりたいと願った。
仕事愛のある人は、当然のことながら、出来栄えにうるさい。失敗したときは叱責も厳しい。
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しかしそれが仕事愛に裏打ちされたものだと理解できれば、部下は甘んじて叱責を受ける。それを励みにしようとする。コミュニケーションを支える礎となるのは、そういうものだ。仕事の味わいを全身全霊で伝えているか。すべてはそこから始まるのである。