文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
新人を早く戦力として育てるためには、3つの「感」が欠かせない。
1つ目は「期待感」。あなたに期待していますというメッセージを、相手に伝わるように発すること。それによって、相手は2つ目の「有能感」を自覚することができる。3つ目は「達成感」。上司や先輩のサポートがあったとはいえ、とりあえず何かを自分の力でなしとげたという実感である。
この3つの感をしっかりと味わえたなら、モチベーションは自然に高まってゆく。大切なのはその「仕かけ」を考えることだ。
手っ取り早い方法として、私は新人の名前を入れたプロジェクトをつくるよう提唱している。高橋くんなら「高橋プロジェクト」というように。
もちろん新人だから、社運をかけるようなビッグプロジェクトを担当させるわけではない。入社して3カ月後あたりでヒアリングをし、業務に関連して関心をもったこと、疑問に感じたことなどを聞く。
「著作権問題の今後の展開について、興味を感じました」
「売り場の陳列はなぜどこも同じなのか、疑問に思いました」
たとえばこんな答えが返ってきたとする。職業人になって最初に抱いた関心や疑問は、大切に扱ってやるのが先輩としての配慮だ。先輩の目から見ても、おもしろいと思えるものや、これを調べさせると仕事にもプラスになると思えるものがあれば、それを「○○プロジェクト」として部署のお墨付きを与えるのである。
私がコンサルタントとしてかかわっている会社では、毎年恒例の行事としてこれを行なっている。新人全員が対象だ。レベルの高い問題意識をもっている者もいれば、そうでない者もいるから、プロジェクトの中身はさまざま。しかし機会は均等に与える。
これをルールとしている。
新人のお遊びなどと侮ってはいけない。このプロジェクトから新商品開発のヒントが生まれ、業績に貢献する例もあるのだから。
きっかけは私自身の体験にある。日本能率協会に就職して2~3カ月が過ぎたころ、私は上司である編集長にこんな質問をした。
「なぜ自社のシンボルマークは、商品によって大きさが異なるのですか?」
上司は「そんなことはないと思うよ」との答えだった。商品というのは書籍のことで、判型や厚みは同じでも、書籍によってシンボルマークの大きさや印刷の位置が多少異なっていた。新人は些細なことに素朴な疑問を持つものだ。上司はその話を本部長に伝え、本部長は私にこう言った。
「うかつにも気がつかなかった。おもしろい発見じゃないか。ではついでに、どんな表示がよいか考えてくれないか。これは本田プロジェクトだ」
おだてられて私は、俄然その気になった。競合他社の書籍を集め、丹念に検討してみた。そして、これがベストと思われるデザイン案を2点つくって上司に報告した。やがてそれが部署の公式会議に提出され、結果として採用されたのである。
あっけない感じがしなくもなかったが、とりあえず「本田プロジェクト」は成功をおさめた。新人だっただけに、このときの達成感は大きな自信となった。
その翌年、企業のシンボルマークやロゴに関する話題が産業界に高まったとき、「本田くん、このテーマはきみにぴったりじゃないか」と上司が水を向けてくれた。それにのって『コーポレート・アイデンティティ』という本を企画・刊行したところ、思わぬヒット商品となった。会長賞のおまけまでついた次第である。
新人は見習いなのだから、「やらされる仕事」が多いのは当然のことだが、自分からチャレンジする意欲も育てなければならない。本人の関心や疑問に沿った「○○プロジェクト」は、その点で格好の取り組みといえるだろう。
名前を入れることで自尊心を高め、仮にたいした成果が出なくても失敗をとがめられることはない。しかも上司としては、相手の能力や資質を判断する手がかりともなる。いいことずくめではないか。
|
|
||||
|
|
|
|
|
|
|
|
||||