文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
あなたの会社では、誰が新人の指導役を担当しているだろうか。一般的なケースは直属の上司だろう。「メンター(指導役)制度」あるいは「ブラザー/シスター制度」などを設けて、中堅の社員に補助させるところも増えている。
直属の上司がすべてを担当するのは、悪いことではないが、それだけで大丈夫と安心してはいけない。とくに年齢が離れた上司の場合はなおさらである。早期に離職した若者たちに聞いてみると、よくこんな指摘が聞かれる。
質問をしても、「こんなことがわからないのか?」とイヤな顔をされる。そのため相談がしにくくなるのだが、そうすると今度は「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)ができていない」と叱られ、どうしていいかわからなくなる。あげく退職――といった例がよくある。
年配の上司にしてみれば、「甘えるな!」と一喝したくなるところだろう。「もっと自分で考えろ」「先輩たちのワザを盗め」とも言いたくなるだろう。
だからうまくいかないのだ。最近の若者たちはそこにジェネレーション・ギャップを感じる。
「なにかあったら聞きにおいで」「質問ウェルカムだよ」。そんな軽いノリで「仲間意識」を感じさせてくれる人でないと、ツーウェイのコミュニケーションはなかなか育たないのが現実なのだ。
仲間意識なんて言葉は甘いというなら「メンバーシップ」と言い換えてもよい。要するに「きずな」を感じさせるために、どんな手を打つか、ということである。
「きずな」を感じさせるには、年が離れていない若手の社員をメンターとするのが効果的だ。私のクライアント会社では、新入社員に対し、入社2~3年目の先輩をあてるようにしている。
「新人に毛が生えた程度の社員に適切な指導ができるか」と思う人もいるだろう。結果として、まったく問題ない。むしろ、「だからこそ大丈夫」なのである。
この場合、メンターが相談にのるのは次のようなことだ。
新人が本当に聞きたいのは、こういう事柄なのだ。
業務の基本的なやり方は上司が教えてくれるが、どうしても「上から目線」になりがちで、ホウレンソウのうちの相談ができない。それをできるのが「同じ目線」に立ってくれる年の近いメンター、くだけていえば兄貴・姉貴である。
兄貴・姉貴のほうも、新人の相談に乗るために、自分の経験や知識を整理しなおし、上手に伝えるための工夫をする。それが本人自身の自己啓発にもつながる。新人に「なるほど、わかりました」という共感的理解を与えることができれば、双方のモチベーションアップに貢献する。リテンション(人材確保)の観点から見ても一石二鳥の効果が見込める。
考慮しなければならないのはメンター役の人選についてだ。とくべつに優秀な人材でなくてかまわないが、「仕事に前向きな人」「斜に構えない人」「性格が明るい人」であることが条件となる。新人はメンターを見習うものだからだ。
この部門内メンター制度によって、クライアント会社ではもうひとつ別の効果も見られた。上司はメンターに定期的な報告をさせるが、それ以外にも、メンター自身が答えに窮することがあれば、自然と上司に相談にゆく。そのことによって上司とメンター役の部下とのコミュニケーションも向上したのである。
上司は新人に基本的な教育をほどこしたあとは、こんなふうに新人と接すればよい。
「困ったことやわからないことがあったら、高橋君(メンター)にいろいろ聞いてみなさい。それでもわからなかったら、いつでも私のところに相談にきなさい」
ついでに、「高橋君はわが部のホープだ。彼の言うことを聞いていれば間違いない」とでも言っておく。それはたいていの場合、新人の口から高橋君に伝わる。高橋君がますますやる気になることは間違いない。