文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
私はよく若手の研修でこんな質問を投げかけてみる。
「これまで上司に言われて、嬉しかった言葉とイヤだった言葉をあげてください」
それぞれにたくさん並ぶが、ごく稀に、嬉しかった言葉とイヤだった言葉の双方に顔を出す言葉がある。「君に任せた」もそのひとつだ。
おそらく読者は意外に感じるのではないか。ふつう「君に任せた」は、相手を信用して言うセリフだから、嬉しいと感じることはあっても、イヤだと感じることはないのではないかと。それが違うのだ。
(1)雑用レベルの仕事をさせるとき
(2)他の人に任せると文句が出る面倒な仕事を押し付けるとき
(3)上司自身にもよくわからない仕事を丸投げするとき
(4)上司がその仕事の責任をとりたくないとき
こういうケースのときに、あるいは、こういうケースのときに限ってのみ、口にする人がいる。言われた部下が、「なんで自分ばかり」と腹を立てるのも無理はない。ていのよい「便利屋」扱いされていると感じるのだ。
上記の(1)~(4)のケースの場合、「君に任せた」と言われた部下はこんなふうに受け止める。
(1)どうせ君はその程度の仕事しかできないだろう。
(2)君なら私に文句など言えないだろうから。
(3)私にはよくわからないが、まあ適当にやってくれ。
(4)いいか。やった後の責任は君にあるってことだぞ。
指示・命令を受ける側は、それほど敏感に反応するものなのだ。だったら、このセリフは口にしないほうがいいのか。
そうではない。イヤな言葉としてカウントする人がいる反面、嬉しい言葉として受け止めている人も少なくないのだから。きちんと説明を加えさえすれば、モチベーションの向上につながる言葉であることは間違いない。要は、誤解や邪推の余地が生じないように配慮して用いることである。
上司が確認するべきことは、次の2点にしぼられる。
・本当に前向きな気持ちで述べること
・誤解の余地がありそうなときは言葉を補うこと
つまり、こんな文脈で述べればよいのだ。
「~だから、君に任せた」
この「~」の部分にていねいな説明を加えれば、上司の思いは部下に伝わる。たとえば、
「君なら、もうこの程度の仕事はこなせると信じている」
「緊急の事態なので、どうしてもやってくれ。責任は私がとる」
「ちょっとむずかしい仕事だが、私もサポートするつもりだ」
こうした説明をしたあとで「だから君に任せた」と続けてみる。単に「言葉の問題」ではない。「心の問題」が潜んでいるのである。
私の顧問会社に、このへんのさじ加減がとても巧みな管理職がいる。
「今回は君しかいない。よろしく頼む!」
「面倒な仕事だが、そのぶん力がつくぞ」
仕事を任せるときは、必ず真正面からきっぱりと言う。言われたほうは意気に感じて、「やるっきゃない」とばかりに奮い立つ。そして無事やりおおせると、「君だからできたんだ。ご苦労さま!」と心から労をねぎらう。
そういう上司に仕えた部下は、自分もまた目下の者に対して心くばりのできる人材へと育ってゆく。そうした循環によって、職場全体のボルテージが他の部署より高く維持されるのだ。ちょっとしたものの言い方で、人はやる気をかき立てられたり、逆に冷まされたりする。そのへんの機微に通じておくことも、新人を早く戦力化するうえで重要なことである。
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