文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
ある出版社の企画会議で、「新入社員向けの本はほんとうに春しか売れないのでしょうか」と疑問を呈した新人がいた。業界では、昔からその手の本は三月から四月に売り出すのが“常識”となっており、出版社が共同して大々的にフレッシャーズ・フェアを実施している。業界人ならずとも、新入社員は入社したての春先にそういう本を買うはずだと思われるだろう。
疑問を呈した新人はすぐに先輩たちからお叱りを受けた。
「そんな質問をしているようでは編集者失格だ」
「ちゃんと書店で観察してきたまえ」と。
しかし彼は反論した。春先に買う人ももちろん少なくないが、研修が続く時期なので読書の時間などとれない人もいるだろう。「私自身もそうでした」と付け加えた。だから、競合他社の本が多数ひしめく春先より、新人がひと息ついて読書する余裕のできる秋口に、わが社だけ新刊を投入するのも戦略ではないか。彼はそのように提案した。
常識はずれの発言だったので失笑を買ったが、ひとりだけベテランがこう応じた。
「なかなかユニークな意見だ。書店で売れ行きを調査して、真偽のほどを自分で確かめてみなさい」
その言葉に後押しされて、新人はデータを収集した。
結果としてわかったのは、いちばん売れる時期はやはり春先だったものの、秋もそれに次いで売れているという事実だった。フレッシャーズ・フェアに乗るのは間違いではないが、一社だけ秋に狙いを定めてみるのも妙手かもしれない。試みる価値は充分にあるのではないか。
何人かの賛同を得て、出版社は翌年10月の読書週間に新人本を出版し、みごとに成功をおさめた。この成功体験によって、若者が学んだことは少なくない。
新人はときとして、上司や先輩には思いつかないようなアイデアを口にして周囲を驚かせる。業界の常識だの既成のシステムだのを知らないがために、斬新な発想をすることができるのだ。その多くは、単に「とっぴ」というだけで、試す価値はないのだが、だからといって無視したり嘲笑したりしてはいけない。それに懲りて、以後ユニークな発想を自己規制するようになるからだ。
「ポストイット」も「写ルンです」もそうだったが、真にユニークな発想というものは、たいてい初めは企画としてボツになる。相手にされない。それは仕方がないこととしても、そうした提案を口にできない雰囲気をつくってはいけない。みんなが「規格どおり」の平凡な発想しかできない人材になってしまうからだ。
新人がユニークな(あるいはヘンテコな)ことを言い出したら、とりあえず茶々を入れずに最後まで傾聴してやろう。どこが悪いかではなく、どこかに賛同できるところはないかという観点で、しっかり耳をかたむけよう。その姿勢が感じられるだけで、相手はとても救われる。
そして、仮に徹頭徹尾ヘンテコなだけの意見にすぎなかったとしても、こんな感じでコメントしてやろう。
「それは○○の理由で採用できないが、君がそれを口にした勇気は賞賛に値する。ぜひまた聞かせてくれ」
真剣に考えたうえでの意見であれば、なんでも傾聴する。そんな風土をつくり、維持することが、ひいては「クリエイティブな人材」の育成につながるのである。
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