文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
「あの選手はおれが育てたんだ」
そう言って胸を張るコーチを、プロスポーツの世界ではよく見かける。育った選手を見てみると、元々ある程度の素質をもち、有望視されていた人材が多い。皮肉な言い方をすれば、彼ら彼女たちの大半は「育つべくして育った」のである。
そうした人材に共通する要因をあげると、次のようになる。
(1)ある程度の素質をもっていること
(2)努力を続けられる能力をもっていること
(3)コーチの指導を素直に受け入れられること
さらに付け加えるとしたら、
(4)コーチとの相性が悪くないこと
一般の職場においても、同じようなことが指摘できるだろう。
ここで問題にしたいのは、(3)と(4)である。つまり、「上司や先輩の指導に対して素直でない部下」や「上司や先輩から見て相性の悪い部下」はハナから駄目か、という問題である。
どんな世界であっても、年長者の言うことを素直に受け入れる者のほうが、そうでない者より成長する確率は高い。相性も、悪いより良いに越したことはない。しかし、だからといって、こんなふうに考えてよいものだろうか。
「よくはない」と頭では理解できても、現実に素直でない若者を見ると、とくにそれが相性の悪そうな若者だったりすると、無意識のうちに拒否反応を示しやすい。このことについては充分に自覚しておく必要がある。それというのも、「有能な人材」には大別して2つのタイプがあるからだ。
その中間に位置する者もいるが、ここではわかりやすく両極端に的をしぼる。
素直な性格で相性もよければ、上司からすれば理想の部下である。いわゆる「愛(う)いやつ」で、印象と同じように評価も高い。当然である。仕事の実績が70点だとすれば、評価はプラスアルファがついて80点、いや時には90点にもなるだろう。
あまり素直でなく、しかも相性が悪そうな部下の場合はどうか。名づけるなら「トンガリ」。上司の目には、いつもトンガッているように見えるだろう。仕事の実績そのものは80点だとしても、心証の悪さが災いして評価は70点、人によってはもっと下がるかもしれない。
「愛いやつ」がダイヤモンドに見えるとしたら、「トンガリ」はただの石にしか見えない。しかし、よくいう「磨けば光る石」は、「トンガリ」の中にいることが多い。『新人を即戦力に育てる方法』という当コラムの題名に即していえば、これはすごい即戦力となる可能性を秘めているのだ。
「愛いやつ」の中に即戦力を見いだすのは簡単だが、「トンガリ」の場合はそうはいかない。だからこそ、こうも言える。小憎らしい「トンガリ」をきちんと評価して、その力を充分に発揮させる器量が上司には求められるのだ、と。
具体的には、どうすればよいか。
「そのやり方はおかしいと思います」などと小憎らしいことを言ってくる新人がいたら、「ほう、いまどき見どころのある若者ではないか」と、まずは肯定的に対処することだ。そして相手の言い分を、納得がいくまで聞いてやること。新人のレベルであれば、多くは見当違いのことを言うだろうが、それでも自分の意見がない者や、あっても言えない者よりはましなのだ。
多少なりともおもしろい意見であったら、仮説を充分に練り上げさせ、やらせてみる方向にもってゆく。失敗をしても、それによって学ぶことができるし、もし成功すればラッキーではないか。
「この上司(先輩)はちゃんと話を聞いてくれる人だ」という印象をもたせることが大切である。そこから信頼関係が生まれ、「トンガリ」がやがて有望な戦力に育つ可能性も高まる。私のクライアント会社を見わたしても、大化けする社員は、ふつうの優等生より文句言いの「トンガリ」の中から多く生まれたように思える。
ソニーの元常務・土井利忠氏は、かつて天外伺朗のペンネームでこんなタイトルの本を出した。『人材は不良(ハミダシ)社員からさがせ』(講談社ブルーバックス)。大きな示唆を与えてくれるキャッチコピーではないか。
扱いにくい部下というものは、上司からすれば「不良社員」のようにも見えるものだ。そういうレッテルを心の中で貼りやすいからこそ、逆に「人材はそこに潜んでいる、それを見いだして育てるのがベテランの眼力だ」と心得ておく必要がある。
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