文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
しつけに関することでも実務に関することでも、経験の乏しいうちはさまざまな疑問をもつものだ。あなたの新人時代を思い起こしてみれば、うなずけるのではないか。
人は疑問をもち、その疑問を解消してゆくことで成長する。そうであれば、部下が疑問をもつことを、奨励こそすれ、弾圧しないでいただきたい。
しかし現実には、奨励型の上司より弾圧型の上司のほうが多いようだ。部下が「なぜ?」を口にすると、反射的にイヤな顔をしたり、「そんなことも知らないのか」と語気を強めたりする。育成の観点からいえば、これは致命的なマイナスである。
若い部下が、とくに新人が、社会人として基本レベルのことを知らないのは、当然のこととして受け流すべきなのだ。そのようなしつけや教育を、これまでほとんど受けてこなかったのだから。だからこそ上司の役割が重要性を増す。
その上司が弾圧型であれば、部下は「なぜ?」を口にすることができなくなる。それで問題解決型の人材が育つだろうか。
弾圧型の上司に対して、部下は理解できなくても理解できたようなフリをして、その場しのぎの対応をするようになる。上司は部下のわかったフリを見逃してはいけない。ほんとうの「わかりました」を引き出すために、部下の「なぜ?」を歓迎してやらなければならないのだ。
私が新人時代にお世話になった上司は、引き出しの整頓の仕方からゴミの捨て方まで、とてもていねいに説明してくれた。
「書類は何度も破ってから捨てること。捨てたらかさばらないように注意しなさい。なぜなら、もし重要な書類の場合、拾われて悪用される危険があるからだ。かさばらないようにするのは、次に捨てる人の便宜をはかるためだ」。
当時はまだシュレッダーが普及していなかったのだが、上司はこうした基本レベルのことを、「なぜなら」という説明付きでひとつひとつ、懇切ていねいに教えてくれた。
教えるとは、相手がわかるように説明して納得を引き出すことである。
部下の問題解決の能力を上げるために、上司や先輩から教えを受けて、きちんと理解できたことはノートかパソコンに記録させる。そういう習慣をつけさせるのも大切なことである。その場で聞き流すのではなく、重要と思われることは書き留めさせて本人に再確認を促すのだ。
あれもこれもと欲張らなくてよい。1日に最低ひとつ、必ずつけるようにする。なにも知らない状態であれば、1日に10も20も覚えることは出てくるだろうが、まずは無理なく長続きさせることを重視したい。
私はこれを「気づきノート」と称して、新人研修などですすめている。はじめのうちは「営業日報」のように、それを上司に見せるなり、ミーティングの場で話させるなりして、相互理解のツールとして活用するとよい。
部下が日々、なにをどのように学んでいるのかを理解することは、上司にとってたいへん意義深いし、その先の指導のしかたを再検討することができる。
しばらくしたら、そこに失敗の体験も書き込むようにすれば、部下本人にとってさらに貴重なノートとなるだろう。やがて自分が人の上司となったときに部下育成のツールとして活用できるからだ。
それというのも、上司が部下にみずからの体験を通して教訓を与えるときは、成功談では単なる自慢話としてしかとらえられず、ほとんど効果がない。「自分がうまくいったのは~」という文脈の話に対して、人は共感より反感を覚えるものだ。
一方、「自分はこんな失敗をした」という語りに対しては、人は興味をそそられる。「この人でもこんな失敗をしたのか。だったら自分も気をつけよう」と自然な教訓を得ると同時に、その種の話を率直に披露できる上司の人柄に親しみと敬意をいだく。そうした人間的な要素も、円滑なコミュニケーションの構築には欠かせない要素である。
このような説明を加えたうえで「気づきノート」をすすめると、いまどきの若者でも素直に取り組むようになる。
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