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人材育成のプロに学ぶ 新人を即戦力に育てる方法

文●人事教育コンサルタント 本田有明

景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。

第4回 うるさい部下より静かな部下に目くばりを


部下を3つのタイプに分類すると

 うるさい部下とおとなしい部下と、どちらが扱いやすいかと問えば、誰だって「おとなしい部下」と答えるだろう。それはそうだ。やたらと上司にかみついてくる「うるさ型」より、言われたとおり黙々と仕事をする部下のほうが、手がかからない。

 しかし、手がかからなければ問題がないかといえば、そうではない。逆に、手がかからないからこそ問題だと考えてみる必要が、部下指導においては大いにある。このことを私は「三匹の子ブタ」の話になぞらえて、「ブーフーウーのウーに注目!」と表現している。

 いつもブーブーと文句を言う部下(ブー)は、なにを考えているかが簡単にわかるという意味で、上司にとって扱いやすい。いつもフーフーとくたびれている部下(フー)も、現在の本人の仕事の状況から把握できる。。

 それに比べて、静かな部下(ウー)のほうは、なにも問題がなくて静かなのか、あるいは心のなかでウーウーと苦しんでいるのかが、外見からでは判断しづらい。そして、いま多くの職場で発生している「心の病」は、ウーのような人によく見られる。

 このタイプの部下は、まじめで内省的、さらにはかなり高い確率で「優秀な人材」でもある。悩みをかかえていても、ブーやフーのように平気で人目にさらけ出すことを自分に許さない。だから、ぎりぎりまで頑張る。あげく、もう駄目だとなったときにポキンと折れてしまう。ウツになって入院したり、前ぶれなく辞表を提出したりするような人は、多くがウーだといえるだろう。

 では、上司としてどう対処するべきか。

 まず、「ウー」のビジネスマンが増えているという現実をよく認識して、おとなしい部下への心くばりを忘れないことである。「なにも訴えてこないから問題はない」とするのではなく、「訴えてこない陰に問題がひそんでいるのではないか」と考えて、こちらから積極的に声をかけるようにすることだ。

 心の病も不祥事も、ミエミエの兆候などというものはまず現れない。ふだんから注意深く観察していなくては、後手にまわる可能性が高いと自戒しておく必要がある。

おとなしい部下にばかり頼らない

 なにか急を要する仕事が発生したとき、上司が依頼しやすいのも、ブーやフーよりはウーのタイプである。だから、文句を言わず上司の指示に従ってくれる部下に、どうしても仕事が集中するものだ。

 有能で見どころのある人材だから、多めに仕事をさせて即戦力化をはかる、というならわかるが、単に任せやすいから、あるいは他の部下には言いにくいから、結果として1人に集中している――そんな職場をよく見かける。

 部下育成の基本は、それぞれの部下のレベルアップを図り、全体の戦力を底上げすることである。特定の部下に仕事が集中すると、その部下は重みに耐え切れなくなってポキンと折れ、他の部下は逆にのんびりしてしまって能力アップが図れない、という二重の問題が発生する。

 ある会社では、10人の新卒を採用したが、半数が1年以内に離職した。扱いやすい3人の部下にばかり仕事が集中し、そのうちの1人が体調をくずして倒れ、あとの2人が嫌気をさしてやめた。こういう上司のもとでは先行きが暗いと判断して、さらに2人が辞表を出した。残ったのは、ブーやフーのタイプの若者ばかり。

 これとよく似たかたちで、有望な人材から順に会社を去ってゆくというケースが少なくないのである。

 まずは、おとなしい部下を「便利屋」扱いしないこと。そして、一部の部下に仕事が集中しやすい職場であれば、「なぜきみに任せるのか」、その理由をていねいに説明すること。「なるほどそうなのか」と部下に理解してもらうことが、円滑なコミュニケーションの原点であることを忘れてはならない。

本田有明(ほんだ ありあけ)プロフィール
1952年兵庫県生まれ。慶応義塾大学哲学科卒業後、(社)日本能率協会に勤務。経営事業本部、情報開発本部などに所属し部長職を務める。1996年に人事教育コンサルタントとして独立。主に能力開発、人材育成の分野でコンサルティング、講演、執筆活動に従事。『本番に強い人、弱い人 』(PHP新書)、『仕事に活かす〈論理思考〉 』(ちくま新書)など著書多数。哲学や人生論の分野でも著作が多い。
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