文●人事教育コンサルタント 本田有明
景気回復や団塊の世代の一斉退職といった社会情勢もあり、新卒採用は超売り手市場で、第二新卒の転職も活況を見せている。しかし、これまで採用を控えてきた企業が、多数の新人を受け入れるのにふさわしい職場環境づくりができているのだろか? 人事教育の専門コンサルタントとして知られる本田有明氏に、新人を職場に定着させ、早く一人前の戦力として活用するための方法を語ってもらった。
私は日本能率協会に在籍していた頃から、長い間人事教育の仕事に携わってきました。コンサルタントとして独立してからも、数十社の企業の現場に入り、人材開発のコンサルティングを行なっています。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉があるように、新人の育成こそが企業にとってもっとも重要な課題です。
今回の連載では現場の新人育成における課題解決に役立つ提言を行なっていきたいと思います。
先ごろ亡くなった城山三郎氏がこんな言葉を残している。
「新入社員を迎えるたびに、しゃんとしなければならないのは、古参社員の方である。新入者の初心を前に粛然と姿勢を正すべきである。新入社員教育は、新入社員の入社ごとに、古参社員が受けるべきである」(『猛烈社員を排す』文春文庫)
新入社員というものは、新卒でも中途採用者でも、それなりに初々しい気持ちをもって会社にやってくる。初々しい気持ちとは、自分なりにベストをつくそうという志と会社への期待感、そして上司や先輩に学ぼうとする心などが入り混じったものだ。――中には斜にかまえた者もいるだろうが、多くは期待と希望に胸をふくらませて入社するのだと考えることにしよう。
そうした新人の気持ちをぶちこわしてしまう人がいる。いわゆる社内評論家的なベテランの存在がそれだ。
「研修と実際の仕事とはまったく別物だ。研修で教わったことなど役には立たないのさ」
「ウチは言うことはりっぱだが、中味は大したことない。鵜呑みにしないほうがいいぞ」
こんなことを吹きかける人が、どこの会社にも部署にも、必ずいる。それがどれほど新人のやる気を阻害するかを、迎える側はよく認識しなければならない。
あなたが部門の長なら、こうした悪しき先輩風を吹かす者が出ないよう対策を講じていただきたい。「しゃんとしなければならないのは、古参社員の方である」ことを周知徹底し、新人のやる気に水をさすような言動のないよう、充分に指導していただきたい。
「新入者の初心を前に粛然と姿勢を正す」とは、そういうことである。 人は配属されて三日で職場を値踏みする
新人の教育で大切なのは、なんといっても、はじめの一週間である。そのあいだに新人の側のスタンスも決まるといってよい。なぜか。
新人は会社に入って、わずか数日で職場を値踏みしてしまうからだ。この場合「値踏み」とは、次のようなことである。
こうしたことを心の中で採点するのに要する日数は、平均して3日ほどである。いわば第一印象のようなものだが、対象が職場であれ人であれ、第一印象の重要性については、あらためて指摘するまでもないだろう。
ある若者は、入社したその日に課長からこんなことを言われた。
「ウチは同族経営だから、出世しても部長止まりなのさ。役員になれるのは、仕事よりヨイショができるやつばかり。きみもそのへんを知っておくといい」
わずか一カ月で彼は辞表を提出した。同族経営の会社であることは知っていたが、こんな情けないことを言う社員が直属の上司であることに幻滅し、さらには多くの先輩も似たり寄ったりであることに失望を深めた。
「だいたい入社したその日に新人を赤ちょうちんに誘って、自分たちのグチをこぼすという神経にびっくりしました。この会社はヤバいんじゃないかと思いましたよ」
たしかにヤバい。しかし、こういう会社は珍しい、というわけではない。同じような話を、私はこれまで何度も耳にしてきた。逆に、先輩が仕事のやりがいを語ることによって、新人のやる気を鼓舞することもできる。
「編集職はいいぞ。なんといっても、勉強しながら給料がもらえるんだから。しっかり頑張れよ」
かつて編集者として採用されたとき、私が先輩から言われた言葉だ。その先輩は他の人よりもかなり多めの仕事をかかえていながら、忙しそうに振る舞うこともなく、残業も週に1度だけで仕事をこなす。残業はなぜ1日だけしかしないのかと尋ねると、毎日するとクセになるから日を決めて集中した方がよいとの答えだった。「見かけの仕事ぶりは実際の中身とは関係ないんだ」とも教えられた。
「ここで働いている人たちはすばらしい」と感じられれば、リスペクトとともに、学ぼうとする意欲も高まる。逆に「ダメだ」と感じれば、意欲が下がり、早々と見切りをつける者も現れる。その違いは先々、大きな差となって現れるはずだ。なにごとも最初が肝心なのである。