文●小森 哲郎
前2回にわたって、実際のIT化プロジェクトがどう進むのかを事例で見てきた。今回は、本連載の最後にもう一度7Sに立ち返ってみようと思う。
ソフトSと呼ばれる最後の2つのS、シェアードバリュー(共通価値観)、そしてスタイル(経営風土)の勘所について話をしてみたい。
7S:経営における課題解決に取り組む際、Strategy(戦略)、Structure(組織機構)、System(運営システム)、Skill(組織能力)、Staff(人材)、Style(経営風土)、Shared Value(共通価値観)の7つの観点から、原因や解決策を多元的に捉えるための枠組み。
7Sのフレームワークは、大きく“ソフトS” と“ハードS”に分けることができる。今まで見てきたスタッフ、ストラテジー、ストラクチャ、システムの4つの要素はハードSであり、スキルや今回取り上げるシェアードバリュー(共通価値観)とスタイル(経営風土)はソフトSと呼ばれるものだ。
企業の競合優位性は、初期の段階ではハードSに依存する。戦略や組織機構、運営ルールなどは、目に見えるものであり、形がある。スタッフ(人材)は、ソフトSとも位置付けられるが、外から調達が可能であり、ハードSと捉えることもできる。ゆえに、これらは他社がまねしようと思えば、まねすることができる。
しかし、企業の体質が良くなってくると、その企業が持つすぐれた共通価値観や経営スタイルが組織の中に定着してくる。企業の体質となるまで昇華されたシェアードバリューやスタイルは、無形のものであるがゆえに、一朝一夕にまねできるものではない。
そうして、他社がまねできない経営風土が確立されたときに、企業は本当の意味での体質改善となる。
もちろん、持つべき価値観やあるべきものの考え方、経営の風土というものは、言葉で定義できる。たとえば、ITをうまく使える企業になるためには、「オープンな雰囲気の中で誰もがアイデアを自由に出し合える」「組織の透明感が高く情報が流動的に伝わる」「新しいものに対して常に積極的に取り組む」経営風土が必要になってくるだろう。しかし、オープンな経営風土を作りましょう、と言うだけでは、人や組織は変わらない。
こうあるべきだと定義したシェアードバリューや経営風土を掛け声だけで終わらせないためには、ハードSが実現へのレバーとなる。ストラテジー、ストラクチャ、システム、スタッフをきっちりデザインし、プログラムを作っていくことが、ITを支える企業文化、価値観、経営スタイルへの変革に結びつくのである。
シェアードバリューやスタイルを定義するには、「どんな価値観を持った企業にならなければならないのか」「どんな経営スタイルをとるべきなのか」ということを考えていくわけだが、その際によく使われるフレームワークにLEAPがある。
ITに関わらず、革新的な企業のベストプラクティスをずっと見てくると、そこにはLEAP(英語では「飛躍、飛び跳ねる」の意)の頭文字で表わされる、価値観や経営風土を支える「土台」が存在する。
まず、Lは“Leadership”(リーダーシップ)を意味する。社員がリーダーシップを取って、新しいことを積極的に行なっていくことを強く動機づけている企業は革新的であり、革新的だからこそ新事業やIT導入が成功する。
次に、人がリーダーシップを取りやすい土壌としての“Environment”(環境設定)が来る。新しいものに積極的に取り組むことができ、また、誰もが徹底的に議論する、そういった環境を作り出すことを非常に重要だと考える共通価値観が存在する。
Aは、“Aspiration”(目線)のAである。ITで成功する企業、ITをうまく活用して問題を解決していく企業は、社内、社外の両方に向けて、良い会社にしていこうという高い目線を持っている。社員も、自分のため、顧客のため、会社のため、高みを目指す視点を備えている。
そして、最後が“Process”(手順)のPである。ITについて議論する会議の場などもプロセスであり、すぐれた企業はそういうプロセスを組織の中に持っている。イレギュラーなことが起きたときに、プロセスに落として問題解決していくメカニズムがなければ、常に出たとこ勝負になる。たまたまうまくいったとしても、プロセス化されていなければ、再現することができない。
基本的にこのLEAPで表される概念が、目指すべきシェアードバリュー・スタイルということになる。この連載では、ストラテジー、ストラクチャ、システムなどをフィックスしていくための勘所を話してきたわけだが、どんな企業も目指すところは、ITをうまく使いながら、事業を成功させることである。当然その中で、社員に新しいものに取り組ませて、より会社をよくしていこうという組織の土壌を作りあげていくことも重要になる。
つまり、シェアードバリューやスタイルだけでなく、ストラテジーやストラクチャなども、LEAPを実現できるものになっているかどうか、その点が肝要なのである。
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| 図1:LEAP達成のための7S改革 |
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