文●小森 哲郎
基本方針が決まれば、やらなければならないことは、おのずと明確になってくる。N社の場合、会社の収益を左右するという点でもっとも感度が高いシステムは明らかにサプライチェーンである。
![]() |
|---|
| 図●収益へのインパクトと緊急性からプライオリティを設定する |
前号で、N社のコスト構造では人件費(固定費)の割合が重いという点を指摘しているが、製造販売では、原材料費もコスト的なインパクトは大きい。N社は、製造は外注しているが、原材料は自社にて購入している。製品価格における原材料費は6~7割を占める。サプライチェーンの導入により、購入した原材料を無駄にせず、売れる商品を作り、在庫率を抑えることが可能になれば、収益へのインパクトは高い。
開発のノウハウの共有がなされていない点も大きな問題だが、これはIT化だけが解決方法ではない。情報共有化会議や事例発表会を開いたり、社内に入っているグループウェアの掲示板機能などをもっと有効に使うことを社内に奨励するという手もある。短期的な収益へのインパクトも、サプライチェーンのほうが大きい。
管理会計(企業内における経営活動や業績管理、意思決定のための材料となる会計情報を作成する会計)系の収益管理の仕組みを作ることも重要度は高い。N社は見込み生産型なので、なるべく早い段階で、その商品が売れるか売れないかを判断する必要がある。小出しに市場に出して、反応を見ながら、ロット単位で量産を管理していくメカニズムが必要だ。より透明感の高い管理会計の仕組みを入れることで、多くの製品を短期で回していく複雑な製品の流れを、正しく単品単位で可視化することが可能になる。
こうしてN社は、管理会計とサプライチェーンの導入を決定した。しかし、いきなりベンダーに話をもっていくようなことはしなかった。まず、自社において、パソコンベースでミニチュア版の作成を試みた。1つ製品を選び、管理会計のシステムをスプレッドシートレベルで作成し、実際のデータも入れて、ユーザーにも見てもらう。それらの意見をフィードバックして改良し、ある程度固まったところで、初めてベンダー選びにとりかかった。
N社はベンダー選びも慎重だった。IT部門のみが評価するのではなく、社内で、シニアマネジメントを含めたITの勉強会を数回行ない、ITベンダーの評価基準をきっちり共有化したうえでベンダーを選定した。
そして最終的に、N社は、玩具業界には導入されていないが、生鮮食品などの食品業で使いこまれており、安定性も高いパッケージ製品の導入を決定した。生産管理(生産計画、作業支持、部品在庫、部品購買など)、販売管理(受発注、在庫、売上、仕入れ、支払いなど)、会計(財務、管理会計)がモジュール化されており、単体でも組み合わせても利用できる自由度があり、カスタマイズの柔軟性も高い点が決め手となった。
こうして、IT化への熟練度は低いN社ではあったが、きちんとステップを踏むことによって、IT化を成功させたのである。

※この記事は、「アスキービジネス ITスキルアップ 2006年4月号」の記事「小森哲郎の『経営から見た IT化成功の勘所』」を再掲載したものです。