文●小森 哲郎
前回から、玩具関連商品の開発、製造、販売を行なっているN社のIT化をモデルケースに、具体的な問題解決の方法を見てきているが、今回が「解決編」となる。第8回では、(1)事業戦略、組織の観点、(2)現況のシステムに関するITガバナンスの観点の2つから、N社の抱える問題の掌握を試みた。これらの問題を解決するために、どんなITを導入するかが、今回の課題である。
IT化を進めるにあたり重要となる5つの基本方針がある。第8回で問題分析を試みたN社のケースにそって解説していこう。
まず、N社は、IT部門を設立したばかりで、大きなIT化のプロジェクトを経験した社員はいない。ITリテラシーやITガバナンスは非常に未成熟な状態にある。となれば、まず何よりも先にやらなければならないのが、IT化に関して、シニアマネジメントがきちんと議論する場を作ることである(または取締役会で議論してもいい)。そういう会議体を設置し、とことん議論する。これを絶対に怠ってはならない。
2つ目が、業界のトップ企業に追従せず、他業種のベストプラクティスに視線を向けてみることである。N社は創業10周年を迎えたばかりの新興企業だ。一方、業界のトップ3社はいずれも老舗で、売上規模は数千億単位、従業員数もN社より桁が1つ上だ。IT化も進んでいる。そのような状況の中、トップ3社と同じことをやっていては、N社の競合優位性に結びつかない。となれば、企業や業界などの枠組みを超えてベストプラクティスを探し、それに学ぶことが戦略上必要になってくる。
たとえば、N社の商品は足が早い。開発から商品が店頭に並ぶまでの期間をできるだけ短縮し、早く店頭で売り切ってしまわなければならない。となれば、たとえば生鮮食品を扱っている企業における、業務プロセスやITのベストプラクティスが、N社の参考にならないだろうか。時間の管理が非常に重要で、スピーディに製品を回していく業界の企業から、N社が学べることはたくさんあるはずだ。
3つ目は、新しいものにすぐさま飛びつかないということだ。最新のITをあえてリスクをとって導入するという考え方を否定はしないが、多くの場合、ベストな決断とは言えない。N社の場合、売上規模が100億円で、利益率は5%程度である。金銭的な制約条件があることも配慮し、ピカピカの最新ITに飛びつかず、すでに実績があり、信頼度の高いITに目を向けるべきだろう。
4つ目の基本方針は、いきなりシステムを本格的に構築しないということだ。N社は社内のITリテラシーも十分ではないし、そもそもITを入れることだけが問題解決でもない。まずはどのタスクから始めるのか、きちんとプライオリティを付けて、小さな実験から入ることだ。プロトタイプを先行的に入れてみて、そこで実証実験を行ない、それなりに使えるものが構築できたあとで、全社的に展開していく。
最後は、「収益へのインパクト」である。N社の利益率は5%で、けっして大もうけしている会社ではない。従業員にとって、とても使いやすいシステムが導入できたとしても、もしIT化が収益をアップするものでなければ、競争が激しい業界において、5%の利益を維持し続けることも難しくなってくるだろう。前述の「基本方針4」は、実行のしやすさに関わるプライオリティだが、収益にインパクトが出るかどうかのプライオリティ付けも重要である。それによって優先すべきIT案件がはっきりしてくる。
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収益へのインパクトと緊急性からプライオリティを設定する
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