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小森哲郎の「経営から見た IT化成功の勘所」タイトル

文●小森 哲郎

第8回 IT化を成功させる実践テクニック:問題掌握編


商品開発のリードタイムの短縮と単品の収益管理が課題

 プロジェクトがスタートして数週間が過ぎた。「診断」結果はというと、N社には“ITリテラシーがほとんどない”ということであった。既存のシステムは、オーナー社長の一存で導入が決定され、戦略的ニーズに合っているかどうかはまったく考慮されていなかった。ただ、自動化、デジタル化しなければ管理しきれないという観点から発注システムが導入されていた。ITガバナンスも明確なものはなく、IT部門も設立されたばかりで、その水準も白紙の状態だ。

診断フェーズ
 

 事業戦略面からの診断で分かったのは、1つは前述しているように、N社の事業計画を見ると、現在1500~2000のSKUが、利益拡大により数万単位へと増加するということ。

 さらに、競争が激しいこの業界では、商品はすぐに陳腐化する。「旬」を過ぎてしまった商品はディスカウントが行なわれる。ターゲットとした時期で売りきらないと、あとはセールで掃くしかなくなるのだ。また、業界の慣わしもあって、小売からの返品も何%かは、受け入れなければならない。

 となれば、店頭に出した商品はなるべく早く売り切ってしまわないと、経営効率が悪い。商品の開発から販売までの時間をどう短縮していくかが非常に重要な課題となっており、約40%のリードタイム短縮が求められていることが判明した。

 その一方で、N社の収益を見てみると、営業利益率は約5%で、そのコスト構造から分かるのは、人件費の比重がかなり重いということだ。その人件費の多くが、商品の企画、設計部門にかかっている(商品の生産には外部の業者を利用している)。内部の人件費は固定費となるので、商品企画・設計部門の生産性は、収益への感度が高い。

 また、N社の商品のほとんどが、受注生産ではなく、見込み生産である。しかし、N社では、商品ごとの一気通貫の商品管理、収益管理ができていないため、商品のライフサイクルマネジメントは、勘頼みのような状態だ。これからますます商品数が増えてくれば、商品単品(SKU)ごとの収益管理はさらに重要になってくる。勘、経験、度胸に依存したどんぶり経営を続ければ続けるほど、日々複雑性が増す中で、リスクはどんどん高まっていく。

各開発部門に蓄積されたノウハウの共有化ができていない

 そして、N社の組織上の問題点は、部署間のコラボレーションやノウハウの共有がまったく行なわれていないことにある。N社の開発部は3セグメントに分かれていて、各部署にそれなりの数の開発者がいるのだが、蓄積された開発のノウハウやテクニック、外部のキーマンとの人脈などは、すべてそれぞれの部署内のみに蓄積されており、村社会状態になっている。情報共有化がすごく遅れているのだ。

N社が全社的に必要とするITは何か? が次の課題

 N社の抱える問題が明らかになってきたわけだが、では、これらの問題を解決していくうえで、優先順位をどう付けていくかが、次の課題となる。また、優先順位の高い分野のIT化を大括りで考えていくことも必要だ。

 たとえば、N社の商品には、リピート客は少なく、顧客を「個」で捉える必要性が低いため、CRM(CustomerRelationship Management:顧客関係管理)ソリューションを入れても意味はないだろう。

 一方、商品企画・設計部門において、情報、ノウハウの共有化を進めるためには、ナレッジマネジンメントソリューションが候補にあがってくるだろう。ベンダーも含めたコラボレーションを可能にするソリューションがあれば、なお効果的だ。

 また、N社では、受注は電子化されていても、店舗ごとの売上傾向などはまったく分析されていない。在庫管理も含めたサプライチェーンを入れ、単品の収益管理が可能になれば、事業戦略のニーズにも合致する。

 次回では、これらの点を踏まえ、解決編へと進むことにしよう。


小森 哲郎(こもり てつお)氏
 
著者・小森 哲郎(こもり てつお)氏プロフィール
コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーで18年間の勤務経験を持ち、世界各国の企業の戦略策定、経営改善に携わる。2002年4月よりアスキーの顧問として再建企画を策定したのち、同社社長に就任、短期間のうちに劇的な企業再生を実現する。現在は、クラシエホールディングス株式会社の代表取締役CEO兼社長執行役員として全社の改革を進めている。



※この記事は、「アスキービジネス ITスキルアップ 2006年3月号」の記事「小森哲郎の『経営から見た IT化成功の勘所』」を再掲載したものです。

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