文●小森 哲郎
「戦略」のないところに、IT投資の成功はない。なぜなら、明確な戦略がなければ、IT導入が競合に勝てる十分なインパクトをその企業にもたらすかどうかの判断ができず、メリハリの利いたIT投資ができないからだ。
そこで前編では、まず「戦略とは何か?」をきっちりと定義し、戦略を打ち立てるための視点として、「ブレークポイント」と「戦い方マップ」の2つを紹介した。今回は、さらに踏み込み、具体的な「IT戦略の立案」について考えてみたい。
7S:経営における課題解決に取り組む際、Strategy(戦略)、Structure(組織機構)、System(運営システム)、Skill(組織能力)、Staff(人材)、Style(経営風土)、Shared Value(共通価値観)の7つの観点から、原因や解決策を多元的に捉えるための枠組み。
IT戦略の立案には、「戦略」「業務プロセス」「IT」という3つのレイヤーが存在する(図1)。まず、戦略が明確に定まると、何を守り、何を捨て、どこまでパフォーマンスを追及するかということが、KPI(Key Performance Indicator)として定義できる。つまり、配送や購買のリードタイム、コスト、品質レベル、応答速度、納入期間などを、管理指標として定量化することが可能になる。
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| 図1:IT戦略立案における3つのレイヤー |
前回の繰り返しになるが、この段階で、KPIがブレークポイント(顧客にとっての価値や競合に対する相対的優位性が大きく跳ね上がるポイント)を超えているかどうかを見極めることが大切だ。たとえば、価格を下げることで顧客を引き付けようとしても、顧客側としては、5%程度安くなっただけでは、取引先を乗り換える手間のほうがめんどうだと考えるかもしれない。顧客層を大きく動かすことができるブレークポイントを超えるKPI、競争に勝つためのKPIを設定しなければならない。
そして、そこまでパフォーマンスを上げるための業務プロセスの改善が次のレイヤー(業務プロセス改革)になる。従来の業務プロセスから不要なステップを取り除いたり、今までとは異なる順番で作業を進めることで効果を挙げられるかもしれないし、まったく新しい業務プロセスを構築する必要が出てくることもあるだろう。
ITについて考えるのはそれからである。ここまで詰めた段階で、その業務改革を実現するために、ITをどう活用していくかを考える。ITを入れたら効果が上がるというロジックではなく、戦略を実行するために業務プロセス改革を行ない、その改革をサポートするものとしてITが出てくる。
業務プロセス改革には、当然ITでカバーできることもあれば、できない部分もあるだろう。戦略→業務プロセス改革→ITという順番で進んでくれば、もし、システムインテグレータにIT構築を勧められたとしても、その導入が戦略的に十分な効果をもたらすかどうかを正しく判断できる。そうすれば、不要なものを購入しなくてすむ。
逆にITから入ると、「CRMを入れて顧客管理をきっちりやって顧客をしっかり囲い込む」というようなファンシーなコンセプトに引きずられることになりかねない。それよりも、もし顧客サービスがその事業のキモだとしたら、どのようなレベルの顧客サービスを提供すれば、顧客を囲い続けることができるのかをまず解明しなければならないのに、だ。ITが出てくるのはもっとずっと後の段階である。
現場で使われないシステム導入が後を絶たないのも、こういうバズワードに踊らされている企業が多いからだ。これは経営者の目線の問題でもある。ITに対して積極的かどうかより、経営者は、企業を成長させていこう、事業を拡大していこう、という目線、ITよりももっと上を見る目線を持っていなければならない。
ITはあくまでもそれをサポートするツールにすぎない。ツールなのであったほうが便利ということはあるが、現実問題として導入・運用にはコストがかかるわけで、全部を取り入れていくことはできない。となれば、KPIを達成するのにどれだけ役立つかという点でITの導入は検討されるべきである。戦略が変われば、ツール(IT)も変わるのだから。