文●税理士 今村 仁
ITに関する税制知識に定評のある税理士・今村 仁氏がマネジメント層が知っておきたい最新のIT税制について、解説を行なう。
前回まで、パソコンやサーバなどの「物への投資」に対する税制優遇措置「少額減価償却資産の特例」や「情報基盤強化税制」「中小企業投資促進税制」についてお伝えしました。
今回は、人への投資「教育訓練費」に対する税制上の優遇措置「人材投資促進税制」を紹介します。
それでは、この人材投資促進税制とはどういった制度なのでしょうか。
この制度は、自社の従業員に対する教育目的の訓練費用を会社が負担した場合に、その会社の支払うべき税金がいくらか控除されるというものです。
人材投資促進税制の対象となる教育訓練費は、「従業員の職務に必要な技術や知識を習得し、向上させるために会社が負担した費用」となっています。当然ですが、従業員に支払った給料や交通費などは教育訓練費の対象から除かれています。
対象となる教育訓練費ですが、これは以下の5項目となります。
(1)外部講師謝金(講師に支払う講師料など)
(2)外部施設等使用料(研修会場代など)
(3)研修委託費(外部教育機関等への委託費など)
(4)外部研修参加費(外部研修費用など)
(5)教科書その他の教材費(研修用の教材など)
この制度の対象事業者は「青色申告書を提出する個人事業者および法人」です。業種や規模などは問いません。対象となる期間は、「平成17年4月1日から平成20年3月31日までの間に開始する事業年度」となっていますので、個人事業者の場合は平成18~20年までの確定申告が対象年度となります。
それでは対象となる教育訓練費を従業員のために負担した場合、どれくらい税金を節約できることになるのでしょうか。
この人材投資促進税制は業種業態にかかわらず、すべての企業で活用できますが、控除額は法人税額の10%が上限となっています。
それでは中小企業A社の事例を見ながら、具体的な解説をしていきましょう。A社の平成18年3月期の法人税額は3000万円で、過去3年間の教育訓練費は下記のように推移しました。
【教育訓練費の推移】
平成16年3月期 600万円
平成17年3月期 400万円
平成18年3月期 700万円
人材投資促進税制の控除額は下記の公式によって算出できます。
控除額=教育訓練費増加額×25%
「教育訓練費増加額」は、今年の教育訓練費から過去2年間の教育訓練費の平均である「基準額」を引いたものです。すると、平成16年と平成17年の教育訓練費の平均は500万円ですから、平成18年の700万円から引くと、教育訓練費の増加額は200万円という数値が導き出されます。
控除額は増加額の25%になりますから、
控除額=200万円×25%=50万円
となります。「控除額は法人税額の10%以下」というルールがありますが、A社の法人税額が3000万円ですから、制限は300万円まで。このケースでの50万円は全額適用されることになります。
| 図1:人材投資促進税制の計算式 |
|---|
![]() |
| 人材投資促進税制によって、教育訓練費の増加額の25%が控除される |
中小企業の経営者の方にはぜひとも知っておいていただきたいのですが、人材投資促進税制には前回登場した「中小企業者等」のみ適用可能な「特例」というケースがあります。中小企業はこの特例措置のほうが、控除額が大きくなる場合が多いようです。
この特例の控除額は、当期の教育訓練費総額に「税額控除率」をかけることで算出できます。ただし、25%と固定されている通常の場合とは違って、この控除率は一定ではありません。
控除率は(教育訓練費増加額÷基準額)÷2で求めることができます。したがって、
税額控除率=(200万円÷500万円)÷2=0.2
となり、A社の控除率は20%ということになります。
なお、特例の税額控除率は「教育訓練費総額の20%」という上限が設定されているのですが、上記の場合、A社の税額控除率はちょうど20%ですので、そのまま適用されることになります。そして特例の公式通り、当期の教育訓練費にこの税額控除率をかけると、
控除額=700万円×20%=140万円
となります。控除額は法人税額の10%以下というルールに合致しているので、140万円が控除されることになります。通常の人材投資促進税制によって控除できる税額は50万円ですので、A社にとっては特例のほうが圧倒的にメリットが大きいというわけです。
| 図1:人材投資促進税制の「特例」の計算式 |
|---|
![]() |
| 人材投資促進税制の「特例」に該当すれば、大幅な税額控除も可能となる |
該当すると控除金額が大きい人材投資促進税制ですが、利用する際に注意点が3つあります。
1つは、対象者が、「使用人(正社員、契約社員、パート、アルバイト等)」となっていることです。つまり、社長を含む役員や個人事業主などはこの制度の対象外となります。たとえば、社長が高額のマネジメントセミナーを受講したとしても、今回の人材投資促進税制の対象とはならないということです。
そして2つ目の注意点としては、この制度の適用を考えているのであれば「計数管理が必要になる」ということです。計算式をみてもらうとわかるように、当期はもとより過去2期分についても、教育訓練費の集計を行なっておかなければなりません。人材投資促進税制は過去2期平均の教育訓練費である基準額よりも、当期の教育訓練費が増加している必要があるからです。
また、この税制は対象者や対象費用に制限がありますから、研修費の勘定科目に「補助科目」という内訳を記録し、期中からきちんと教育訓練費の集計を実施しておくことをおすすめします。、そうすれば、期末に集計漏れが起きにくくなるでしょう。
そして最後の注意点は、この制度の適用を受けるためには、税務申告書に控除額の詳細な計算などを記入した「明細書」を添付しないといけないというルールが決まっていることです。忘れないでください。
「企業にとって最も大切なのは人」とよく言われますが、コスト負担を嫌がって人への投資を渋る会社も多いようです。もし上司や経営陣が教育訓練費を惜しむようなことがあれば、この人材投資促進税制の存在を伝えてみてはいかがでしょうか。