【短期集中講座】中小企業にとってのメリットと課題を探る
文●木暮 仁
前回まではERPパッケージが登場した背景とそのメリットを中心に考察してきた。だが、ERPパッケージの導入はもちろんメリットばかりではない。短期講座の最後となる第3回では、中小企業が導入時に気をつけたいポイントを見ていこう。
第1回でも触れましたが、大企業でのERPパッケージの導入は、アドオンの問題や経営者の意識の問題など、いくつかの教訓を残しました。中小企業でERPパッケージを導入する際には、こうした大企業での反省点に加えて、中小企業固有の事情を勘案する必要があります。以下、いくつか留意すべき点について考えてみたいと思います。
前回、前々回と見てきたように、ERPパッケージを導入するメリットのひとつに、全社統合的なシステムの実現がありました。
しかし、気をつけたいのは、実際にはERPパッケージをただ導入するだけで統合されたシステムになるのではないということです。それには、IT以外の業務そのものについても、統合の観点から見直す必要があります。
まず、ERPパッケージでは、すべてのデータを一元的に管理していることが前提になります。たとえば営業部員が一部の在庫についてERPパッケージに入力せず、個人的に管理していたりすると、数字を二重に持つこととなり、混乱を招くことになるでしょう。
また、ERPパッケージは、売上データを入力すれば、会計データも自動的に変更され、極端にはリアルタイムで決算ができます。ただ、実際の業務の仕方(たとえばERPパッケージへのデータの入力)がリアルタイムになっていない場合には、こうした仕組みが無駄になるばかりでなく、混乱を増大させる危険性もあります。
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| 図1●ERPパッケージの導入には、IT以外の「コンピュータ以前の問題」の解決が不可欠だ |
このように、全社統合的なIT化を進めるには、業務の標準化や社内用語の統一など、“コンピュータ以前の問題”を解決しなければなりません(図1)。これは当然なことなのに、多くの中小企業ではコンピュータ以前の問題が山積しています。ERPパッケージの場合は、ある程度の成熟度を持つ企業での導入を想定して設計されていることから、これらの解決が特に重要になってくるのです。
中小企業の特徴として、大企業とは異なるビジネスモデルがコア・コンピタンス(他社の追随を許さない優れた経営資源)になっていることが挙げられます。たとえば、大企業であれば一見不合理に見える、顧客ごとのきめ細かな対応によって得意先の満足を得ているような企業もあるでしょう(図2)。
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| 図2●一見不合理に見える商習慣でも、中小企業ではコア・コンピタンスになっている場合がある |
国際標準とかけはなれた商慣行が残っている中小企業に対して、コンサルタントは「ERPパッケージでベストプラクティスを取り込み、時代遅れの商慣行から脱皮せよ」と言います。当然ながら、単なる惰性で継続してきた不合理な商慣行は見直しが必要です。しかしながら、ERPパッケージのベストプラクティスとはあくまでも「一般論としての優れた方法」であり、必ずしも個別状況での最適解ではありません。
ERPパッケージの導入によって、中小企業ならではの強みを失ってしまったら、大企業と同じ条件で競争することになってしまいます。厄介なことに、何がコア・コンピタンスなのか、放棄すべき慣習なのかは、ERPパッケージ導入のコンサルタントには分かりません。それどころか、経営者も気づいていないことが多いのです。
ERPパッケージの適用業務を考えるときには、まず自社固有の業務を列挙して、放棄すべきものなのか、死守すべきものなのか、慎重に検討したうえで明確にするべきでしょう。
よくも悪くも、中小企業ではワンマンタイプの経営者が多く、ERPパッケージの導入は経営者自身が強く指導すれば実現しやすい環境にあります
しかし一方で、経営者がワンマンである場合の危険もあります。経営者が業務改革やIT活用の知識が不十分なままにベンダーのおいしい話に乗って、自社の状況との検討もせずに、特定の製品やベンダーを決定してしまうのです。
大企業ならばCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)などのIT化に専心する責任者がいますが、中小企業には存在しませんし、IT部門も人材不足です。すると、ベンダー側が主導権をとるようになり、経営者の独りよがりのシステムになったり、ベンダーに都合のよいシステムになってしまう可能性があります。
経営者が絶対的な力を持つ中小企業だからこそ、IT化や業務改革に対して、経営者自身が十分な注意を払う必要があるのです。