~実務に役立つ~
グロービス・キャピタル・パートナーズ 山中 礼二
どんな企業も成長の過程で、組織が疲弊し、傷むことがある。前回、会話のない職場や社員のうつ病の増加など、痛んだ組織で起こる問題点を知り、その問題の本質を理解する方法を述べた。最終回となる第3回では、「組織の傷み」を解決する手法を探っていく。
【ある会社の事例】
社員の離職率が高い、ある人材派遣会社に助言をしていたコンサルタントの吉田氏は悩んでいた。社員インタビューを通して、「傷み」の原因は複数の要因から複合的に発生していることが判明した。しかし、これを止めるためにやるべきことはあまりにも多かったからである。
実際、吉田氏の目の前には解決策の案を25個羅列したメモがあった。これらをすべて人材派遣会社の田中社長にぶつけても、混乱させるだけだろう。優先順位の高い解決策に限定して提案し、スムーズに問題を解決したい。「外部から評論するのは簡単だが、組織にメスを入れるのは大変だ……」。 田中社長の苦しそうな顔が脳裏に浮かんだ。
傷んでいる組織を、どう改善したらよいのか。「傷み」の箇所が明らかになり、その原因が明らかになれば、あとは原因に対応する解決策をひとつひとつ実行していくばかりである。 本稿では、経営上の課題を解決するアクションプランとしての「打ち手」を立案する際に、自問自答すべき4つの質問をご紹介したい。
質問1)即効策と長期的施策が両方含まれているか?
質問2)その打ち手は、実行性と実効性を兼ね備えているか?
質問3)打ち手の弊害として、何が予測されるか?
質問4)発展的な問題解決となっているか?
目の前に噴出している問題点だけを解決する「即効策」に傾斜すれば本質的な解決策とはならない。一方、根本的な問題解決を図ろうとすれば時間のかかる「長期的施策」となり、現場の「傷み」は当分発生し続ける。効果が出るまで数カ月から1年程度かかる即効策と、半年から3年程度かかる長期的施策のバランスのよい組み合わせが重要である。
以下の表は、それぞれの分野の問題に対する典型的な打ち手を列挙したものである。
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| 即効策と長期的施策の相関関係 |
表の中では、問題の本質を、組織から発生する問題と、戦略から発生する問題に分けている。
組織から発生する問題は、組織の管理者がリーダーシップを発揮することで、短期的にかなり緩和することができる。
一方で、根源的な解決のためには、組織構造やオペレーションの仕組みを改訂することが、解決策となることも多い。また、問題によっては、よい企業風土の醸成が長期的な解決策となることもある。社内のイベントや、優秀社員の表彰を通じた社内ベスト・プラクティスの共有、自社のコア・バリューの成文化などは、社内で働く人たちを長期的に活性化する効果がある。
問題を短期的に解決するか、長期的に解決するかの見極めは、自分自身の組織の中のポジションによっても変わってくる。
たとえば、大企業の中間管理職であれば、部下とのコミュニケーションや仕事のバランス調整などが、短期的な急務である。一方で、採用方針の変更や、トップマネジメントのあり方を正すといった打ち手は、長期的な課題となる。皆さんが経営陣であれば、中間管理職層の部下に対するコミュニケーションを改善するというのが、中長期的な経営課題になるかもしれない。
打ち手には、きちんと最後までやり遂げる「実行性」と、導入した施策が効果を発揮する「実効性」の両面が問われる。
前回、Architecture (組織構造・制度)が傷んでいる事例として紹介した、アニメーション制作ベンチャーのケースで解説していこう。
この会社では膨大な仕事量をこなすために制作スタッフを急増させたものの、マネージャー層が育っておらず、1人の役員が200名近くのスタッフを評価し、給与を決めなければならないという事態に陥った。その結果、不公平な昇進や昇給が横行し、スタッフの間には不満が蓄積していた。
そこでこの企業は、職位階層を構築し、評価制度を作り、多岐に渡る評価項目を設定し、明文化された給与制度を構築した。
では、この打ち手で問題を解決できたのだろうか? 実は、解決できなかったのである。
原因は、これらの制度を浸透させ、運用する人材がいなかったことにあった。アニメ制作の世界にどっぷりと使ったこの企業のマネージャー層は、「部下の評価を書いて提出する」という、これだけのことに対しても、日常業務の煩雑化を嫌い、拒絶反応を示した。効力を発するはずの打ち手でも、実行性がない典型例である。
仮に、導入する人事制度を簡素化してみるとどうだろうか。評価尺度を「がんばっているか否か」という単一項目にして、評価者が○×で部下を評価することにしたら、運用は簡単かもしれない。しかし、評価項目が大雑把すぎる上に、評価尺度が主観的に過ぎるため、そもそもの問題だった「不公平感」は解決されない。実行可能なプランであっても、実効性があるとは限らないのだ。
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