なぜ、企業不祥事は続くのか
文●斉木 融
近年、大企業の粉飾決算事件が相次いでいる。第三者のチェック機関である監査法人が機能していないためである。2月20日には顧客からの信頼を失ったみすず監査法人が、監査業務を新日本、トーマツ、あずさの3監査法人に移管すると正式発表した。監査法人の不祥事の構造を探る。
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| 1900億円の損失過小評価という粉飾決算疑惑にゆれる三洋電機。写真は大阪府守口市の本社ビル(写真提供:共同通信社/Photo Kyodo News) |
昨年カネボウの粉飾決算に関与して処分を受けたみすず監査法人(旧・中央青山監査法人)。今年に入ってからも日興コーディアルグループ、三洋電機と監査先に粉飾疑惑が相次いでいる。“会計不信”を招いたA級戦犯は、ついに業務継続を断念、事実上の解体を余儀なくされるが、それにしてもなぜ、企業の不正会計は後を断たないのか。
粉飾は俗に「お化粧」といわれるように、会社の業績を実態よりもきれいに見せることをいう。赤字より黒字のほうが、わずかな黒字より大きな黒字のほうが見映えがいいのは言うまでもない。女性が化粧をしてきれいに見せたいのと同じように、企業経営者も、格好よく見られたいという抜き差し難い欲求がある。
しかし女性の化粧が世間的に公認、というか推奨されているのと違い、企業の化粧は原則禁じられている。
「原則」というのは、企業会計はそもそも“裁量”の世界であり、金融ビッグバン(96年に橋本内閣が定めた金融制度改革。規制を緩和・撤廃して金融市場の活性化や国際化を図った)以前は、その裁量が広範囲にわたって認められていたからだ。期末在庫を若干高めに見積もって売上原価を少なくする(それだけ利益が膨らむ)といった“薄化粧”は、誤解を恐れずにいえばどの企業でも普通に行われてきた。
三洋電機で今回問題にされたお化粧は、経営不振の半導体子会社などに発生していた損失を、2004年3月期に約1900億円を投じて処理すべきだったのに、約500億円しか損失処理しなかったというものだ。しかし、これは従来の「裁量の世界」では許容範囲である。1900億円を処理すべきだったというものの、不振の半導体子会社がいずれ業績を回復できる見込みがあるという認識に立てば、「とりあえず今期は500億円分だけ処理しておこうか」という裁量は、これまでなら許容されていたのである。
そもそも銀行の不良債権処理が遅れたのも、「いずれ地価は下げ止まるだろうから、今期の引当金はこのくらいで」という裁量がまかり通ったからだ。それが許されなくなり、日本長期信用銀行や日本債券信用銀行など破綻する銀行が現れたのは、地価が想定外の下落を続け、結果として引当額が過小であると当局によって判断されてしまったからだ。決算の薄化粧が「裁量の範囲内」として許容されるか、それとも「粉飾」と断罪されるかは、金融当局や捜査当局の裁量によって左右される面があるのだ
厚化粧を落とした女性の顔を見た男性が思わず「詐欺だ」と叫んだとしても、女性が罰せられることはない。しかし企業会計の世界では、露骨な厚化粧は粉飾とされ、行き過ぎれば詐欺罪に問われることもある。
上場会社ではないものの、厚化粧がばれて今年2月、実際に東京地検特捜部に詐欺容疑で逮捕されたのが、環境ベンチャー「イー・エス・アイ」(ESI)を経営していた京塚光司被告だ。東大卒、東京海上火災保険、ソニーを経て東証一部上場のネミック・ラムダの社長も務めた著名な経済人であり、02年には日経BP社が主催する「日本イノベーター大賞」なるものを、環境ビジネスへの取り組みが評価されて堂々受賞している御仁である。
京塚被告がESIにほどこしたお化粧は常軌を逸するものだった。実際には売り上げがないにもかかわらず、あったことにする。そのために、日本マクドナルドをはじめ多数の企業がESIに商品を注文したとするウソの書類を偽造する。それらの偽造書類がESIに多額の売掛債権がある証だと、それを担保に銀行から融資を引き出す。そして見映えのいい決算書を作成し、上場するといって出資を募る。日本を代表するメガバンクや大手企業が、ESIの詐欺にあっけなく引っ掛かった。
女性がなぜお化粧をするのかといえば、奇麗に見えるから、好印象を与えられるからで、結果として素敵な男性とお近づきになれるなどの“利得”にあずかることもあるだろう。企業の場合も業績がよくみえる、取引先(官公庁、銀行)から信用される、取引条件がよくなる、自分の報酬や配当を増えせる――などの実利が期待できる。 ESIの京塚被告は銀行や取引先から資金を引き出し、あわよくば株式公開で創業者利益を得ようという目論みがあったし、日興コーディアルは業績に連動して経営者に巨額の報酬が入る仕組みがあり、旧経営陣は私欲を満たすために粉飾を主導した疑いが濃厚である。
監査法人の役割は、こうした粉飾をさせないようチェックすることである。いわば校則で化粧が禁止されているのに化粧をしたがる女生徒を監視する生活指導の先生のようなものだが、中央青山監査法人からカネボウや日興コーディアルに赴任した会計士の先生たちは、化粧をしたがる女生徒を叱るでもなく、逆に「こうしたほうがもっときれいに見える」とメークの仕方まで教えていた。
彼らはなぜ適切な生活指導(監査)をしなかったのか。教育委員会(金融庁)やPTA(日本公認会計士協会)は何をやっていたのか。なぜ中央青山の先生に不祥事が集中するのか。次回ではそれを検証してみよう。
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