小池 晋一
このコーナーでは月に1度、IT・テクノロジーの世界で話題のテーマについて書かれた書籍を紹介する。インターネットの世界で起きている大きな変化について、本質的なポイントを押さえたいビジネスマンにはぜひ読んで欲しい。
今回紹介する本は、「iPodは何を変えたのか」である。
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著者:スティーブン・レヴィ 翻訳:上浦 倫人 出版社:ソフトバンク クリエイティブ 価格:1890円(税込) ISBN-13:978-4797334159 |
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iPodは、今年の4月には累計の販売台数が1億台を突破したデジタルミュージックプレイヤー。この携帯電話に次ぐ身近な情報端末によって、アップル社は他の追随を許さない、音楽事業を収益の柱とするデジタル企業へと大きく成長を遂げた。
また、25億曲以上の楽曲に加え、5000万本以上のテレビ番組、130万本以上の映画を販売する「iTunes Store」とのシームレスな連携により、iPodはマルチメディア端末として、大きな飛躍を遂げているのである。
著者は米『ニューズウィーク誌』のチーフテクニカル記者で、アップルのスティーブ・ジョブズとは親交が深い。本書は、このiPodの誕生から成功までの道のりを詳細に描いている。
たとえば、iPodの成功要因として挙げられるのは以下のようなものが一般的だろう。
まず、2001年1月リリースされた音楽管理・再生ソフト「iTunes」の存在。最初の1週間で、27.5万本ものダウンロード数を記録し、iPodの販売前から使い勝手のよさがユーザーの注目を集めていた。また、2003年4月に登場した、1曲99セントでダウンロードすることができる「iTunes Store」の成功。iPodのスクロールホイールに代表されるデザインの斬新性は高く評価されている。また、それ以前のミュージックプレイヤーに比べて何千曲も保存できるようにストレージを大きくしたことも成功要因の1つだろう。
本書では、醍醐味はなんと言ってもiPodの開発現場を生き生きと描写してくれるエピソードの数々である。
たとえばマック用のデジタル音楽再生ソフトを開発していたサウンドステップという会社を買収し、そのスタッフとiTunesの最初のバージョンをわずか4カ月で完成させたというエピソード。
あるいは、ジョブズがそのカリスマ性を最大限に発揮し、「iTunesストアはせいぜい4~5パーセントのシェアしかもたない、マッキントッシュ専用の、取るに足らない零細ストアだ」(当時はまだウィンドウズ版を提供していなかった)と言って、米国音楽産業の5大レーベルのトップにデジタル音楽配信を納得させた話など、具体的な開発エピソードがたくさん登場する。
たとえば、コンセプト作りの中で、ジョブズが言い放った「電源はいらないよ」という言葉は実にすばらしい。簡単に電源を入れたり切ったりできるのがいい製品だと考えられていた旧来の家電の常識を打ち破り、iPodはいちいち電源を操作しなくても、そのまま使えるようにしている。これはデジタル時代のユーザーニーズを的確に捉えた、ジョブズの感性をよく表している。
この本には著者がライバル企業のトップにiPodの感想を聞くシーンがしばしば登場する。
iPodのクールさを高く評価する著者は、マイクロソフトのビル・ゲイツと「クールさの本質」について議論を繰り広げる。その中で「クールな製品とは高いシェアを獲得することだ」と定義したゲイツの言葉もおもしろい。販売が拡大するとその製品が時代にあったクールなものに見えてくるという考え方は、クール好きの若者をターゲットとした、先端ビジネスでは納得できる部分がある。
世界をリードするビジネスリーダの感性のすごさをうかがい知ることで、読者はエクセレントカンパニーの活力のすごさを実感させられる。まるでグローバルトレンドを作り上げた当事者になったような気分を味わうことができるのである。
本書を読むと、時代の潮流を作るようなビッグヒットが生まれる背景には、コンセプトや製品に対するこだわりといった自助努力はもちろんのこと、まだ顕在化していない時代のニーズにマッチしていることが不可欠であることが痛感させられる。
また、この大きな成功が新しい文化を生み出しつつあるとの見識にも説得力がある。
たとえば、コンピュータの無作為性を利用したiPodのシャッフル機能(音楽をランダムに再生する機能)は多くの人に支持された。著者の言葉を借りれば、「自分のお気に入りの曲しかかからない、私専用のラジオ局のようなもの」だったからだ。これはストレージの大容量化とあいまって、今までにない新鮮なサービスとして人々に興奮をもたらしている。
実際、アップル社は、iTunes Storeでテレビ番組やミュージックビデオをタイトルごとに販売している。これまで放映スケジュールに縛られていたテレビ番組を「アラカルト型」といえる視聴スタイルに変更するなど、新たなビジネスチャンスを生み出しているのだ。iPodがデジタル革命の方向性を指し示す巨大な存在になったという著者の確信には共感できた。
新しい潮流を作り出そうと意欲を持つビジネスマンにぜひ読んでもらいたいお勧めの1冊である。