小池 晋一
このコーナーでは月に1度、IT・テクノロジーの世界で話題のテーマについて書かれた書籍を紹介する。インターネットの世界で起きている大きな変化について、本質的なポイントを押さえたいビジネスマンにはぜひ読んで欲しい。
今回、紹介する本は、『オープンソースの成功 政治学者が分析するコミュニティの可能性』(以下、『オープンソースの成功』)である。
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著者:スティーブン・ウェバー 翻訳:山形 浩生、守岡 桜 出版社:毎日コミュニケーションズ 価格:2940円(税込) ISBN-13:978-4839916589 |
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この本で紹介されるオープンソースソフトウェア(OSS)とは、メインフレームからUNIXに切り替わったオープン化の波に続くもので、「オープンソース化の波」として大きな注目を集めている。
OSSはソフトウェアの設計図のソースコードを無償で公開し、誰もがソフトウェアの改良や再配布が自由に行なえるソフトウェアを意味する。たとえば、現在IT業界の中で、巨大な存在に成長し、日々メディアを騒がせているGoogleを裏で支える技術も、このOSSなのである。
しかし、無償でソースコードを公開し、お金を稼ぐことを目的としていないオープンソースコミュニティの活発な活動は、ビジネス視点からするとかなり奇妙にみえる現象である。なぜなら、通常のソフトウェアの開発には既存の経済活動と同じように、ヒト・モノ・カネが必要となる。しかし、OSSは一種のボランティアのような活動から新しい成果が生まれてきているのである。
OSSについて解説する際によく引用されるのが、「ハッカー倫理」である。誤解している人もいるかもしれないが、ハッカーとはプログラムを心から愛し、その発展に貢献する人のこと(システムを破壊するなど悪意のある者はクラッカーと呼ばれる)。つまり、OSSは、ハッカーのように「報酬よりも賞賛を求め、創造性や情熱、仲間との情報共有などを重んじる価値観」に支えられている特殊な世界で、既存の経済活動とは違う世界という認識である。
ところが、サーバ分野におけるLinuxなどの事例で見られるように、OSSはIT業界に君臨するマイクロソフトほどの大企業でも舌を巻くほどの成果を上げている。そう考えると、一種のボランティア団体が優れた組織力を持っているといった点で、ハッカー倫理だけでは納得できない点が多い。
本書はそういった疑問に焦点を当てて政治経済のファクターとして、コミュニティ活動を分析し、オープンソースの成功を解説している。
『オープンソースの成功』は、UNIXの初期の歴史からLinuxの進化までを考察しながら、OSSの開発プロセスを明らかにしている。また、著者は、OSSコミュニティの根本をなす疑問を紐解くために、
の4つの視点からこの本質に迫っている。さらに、ヒアリングやアンケート結果、コミュニティ内の葛藤なども詳しく説明している。
これらの試みは、OSSコミュニティをハッカーといった特殊な世界の出来事ではなく、合理的な経済活動として捉え直そうとしている。言い換えると、これまでハッカー倫理でしか語られなかったOSSコミュニティの活動を組織論的立場から考察し、その活動の普遍性を明らかにしている。
そして最終章では、OSS的な新しいコミュニティ活動と従来的な経済活動との関係が深まると、どのように広がっていくのか、その成功条件と将来展望を模索している。
ちなみに原書の発売は2004年4月。日本語訳の刊行までに3年が過ぎており、もっと早い出版が望まれた。この本を技術的な解説書や最新動向の事例として捉えると、多少古い書物に思えてしまうが、OSSの存在感がますます高まった現在、まだまだ一読に値する書籍といえる。