2006年8月4日
「独自のデータベースを構築できること、さらに、カスタマイズが極めて容易なこと――。この2つの特徴なくして、現在のような利便性の高いシステム環境を整備することはできなかっただろう」
セールスフォース・ドットコムのASPサービス「SalesForce」を社内の案件管理に活用している人材派遣会社のレモンで、利用環境の整備に携わったCRMソリューションチームゼネラルマネジャーの吉川昌彦氏とCRMソリューションチームリーダーの櫻井啓晶氏は、ASPが社内で積極的に活用されている理由についてこう打ち明ける。
レモンは空調整備や防災設備など、ビルの各種設備工事などを手掛ける新菱冷熱工業の管理部門を母体に、1998年に設立された企業である。設立当社は人事や経理、総務といった新菱冷熱グループ向けのアウトソーシングや人材派遣を事業の中核に据えていたが、その後、グループ企業以外への営業活動も本格化。2003年には、新菱冷熱工業のシステム部門を吸収することで、建設業向けのパッケージシステムの外販も開始した。さらに、今では携帯電話の販売代理店業や福祉事業も行なうなど、手掛ける業務は幅広い。
このように、設立以来順調に業容を拡大させてきたレモンだが、実は同社はそれゆえの課題を抱えることとなった。業務が多岐に渡るようになったことで、企業全体として営業情報をリアルタイムに把握することが困難になり、効率的な営業活動が難しくなっていたのだ。
同社では一般的な企業と同様に、「アウトソーシング」、「人材派遣」、「情報システム」などの営業品目ごとに営業部隊を組織している。だが、「営業品目が増えたことで、個々の営業部隊がどのような動きをしているのか他部門から見えにくくなっていた。その結果、紙ベースの受注報告書が上がって来て初めて、どの顧客にどのような商品の提案活動が行なわれていたのかを理解することができた。案件をリアルタイムに管理でき、個々の営業活動の内容を一元的に把握できていれば、別の商品も一緒に提案することで受注額の割り増しが見込めた案件が社内で散見されるようになっていた」と吉川氏は当時を振り返る。
レモンが直面していた課題は、全社の営業活動に最終的な責任を負う“社長”という職にとって、決して見逃せないものである。そして同社では、前代表取締役社長の植田博氏が課題解決のために大きな役割を果たした。実は植田氏はこれまでの業務を通じてITの知識を豊富に備えており、植田氏自身が課題解決のためにSalesForceの導入をトップダウンで指示したのだ。
ASPを利用すれば、社内にサーバを設置する必要がないことから、初期投資を抑えることができ、運用の手間が一切かからない。加えて、SalesForceでは、事前にツールを用いてさまざまなカスタマイズが行なえるようシステムに高い柔軟性が備わっており、ユーザーにとって利便性の高いシステムを構築できると見込まれたという。
植田氏の号令の下、吉川氏をはじめ7人から成る導入プロジェクトチームが結成されたのは2004年の暮れも押し迫ったころのこと。それから3カ月という短期間で、利用環境の整備が急ピッチで進められた。
もっとも、作業は決して単純なものではなかった。
「我々が手掛けている業務は非常に幅広い。そのため、それらのすべての営業案件を管理するためには、SalesForceに事前に用意されている案件管理の項目だけでは対応しきれなかった。また、提案を行なった時期や顧客から入金があった時期なども同時に把握するために、そのためのカスタマイズも不可欠だった」
櫻井氏によると、ほかのASPサービスはデータベースをカスタマイズすることが難しかったという。しかし、レモンのように管理すべき情報の種類が多くなった場合には、データベースに手を加えて対応せざるを得ない。その点、「データベースを独自に構築できたことは、情報の管理の点から極めて大きなメリット(櫻井氏)」だったという。
一方で、同社では人材派遣業務において派遣先や派遣期間などを管理するために、アクセスで構築したデータベースを活用していた。この既存資産を生かすために、SalesForceとのデータ連携を実現させる必要もあった。
ただし、レモンではプロジェクトメンバーを新菱冷熱工業の情報システム部門を中心に組織していた。そのため、メンバーの多くはメインフレームの運用などの従来業務を通じ、高いITの知識とノウハウを備えており、このような困難な作業も何とか独力で乗り切ることができたという。櫻井氏は当時の作業を次のように振り返る。
「要領さえつかめば、入力項目を追加する程度であれば簡単に行なえるはず。ただし、他のシステムとのデータ連携を行なうためにはプログラミングの知識が不可欠になる。この部分は一般の企業であれば外部に作業を委託することになるだろう」
CRMやSFAなどの、いわゆる情報系のシステムには、現場の社員に情報の入力を“強いる”側面がある。そのため、せっかくシステムが整備されながら、現場の反発によって使われなくなるケースも少なくない。
レモンでは管理職以上の社員にSaleForceの利用を義務付けているが、SalesForceの採用が明らかになった当初は、利用に後ろ向きの声も少なくなかったという。これに対して、プロジェクトチームは利用を活性化させるために「スケジュール」と「To-Do」を必ず入力させることで、社員の意識を変革させることから着手した。
「自分の営業案件情報を明らかにしたくないというのは、営業であれば必ず感じること。しかし、この考えを改めさせなければSalesForceの利用を軌道に乗せることはできないと感じていた(吉川氏)」
この取り組みの大きな追い風となったのは、植田氏、さらに現代表取締役社長である鈴木哲夫氏の両氏が積極的に利用したことだ。管理職が入力したTo-Doやスケジュールにこまめに目を通し、内容に応じた返信を頻繁に行なったのである。さらに、管理職に対して案件管理の必要性をことあるごとに説き、入力を頻繁に促した。このような活動を通じて営業情報の入力が徹底されるようになり、利用開始から1年を経過した今、管理されている情報はTo-Doや営業案件数などを合わせると1万件に到達する勢いだ。
また、営業案件が一元的に把握できるようになったことで、営業活動の高度化にも役立っている。最新の売上や商談状況がリアルタイムに把握できるようになったことで、営業品目の壁を超えた営業活動や顧客サポートができるようになったのだ。また、同じ製品の売上を地域ごとに比較することで、地域特性を把握したり、潜在的な市場を把握したりといったことも可能になった。
さらに、同社ではこれまで月に1度、全国から約50名のマネジャークラスの社員を本社に呼び寄せ会議を開催していたが、SalesForceの利用を機に会議を廃止し、代わりにSalesForce上で社長が入力したTo-Doを一覧で確認できるようにしたのだ。
「全国から泊まりがけで東京に出張していたため、そのコストは決して無視できる金額ではなかった。それがSalesForceによって削減され、浮いたコストをSalesForceのライセンス料にまわすことができた(吉川氏)」
さらにレモンでは、SalesForce自体の機能向上によって、各種の業務を効率化させることができたという。実はレモンがSalesForceの利用を開始した当初、SalesForce上で計算式を用いることができなかった。そのため、従来はデータをCSV形式に変換して別のアプリケーションで計算を行ない、SelesForceに再入力するという面倒な作業が発生していた。しかし、昨年に実施されたバージョンアップにより計算式が利用できるようになり、SalesForce上で作業を完結できるようになったのだ。
「SalesForceはユーザーの要望に応じて、定期的にバージョンアップが行なわれている。将来的な運用を踏まえれば、ASPを選択するにあたって、この点も確認しておくべき」
SalesForceの活用を通じてさまざまなメリットを享受しているレモン。しかし、同社ではSalesForceのさらなる活用に向けて、すでに次の利用像を描きつつある。櫻井氏は次なる取り組みについて次のように述べる。
「1年間利用してきたことで、さまざまなデータがシステムに蓄積された。これをいかに営業活動に生かすかが次のテーマ。そのためには、他の分析系のアプリケーションと連携させることも考えられる。案件データを多様な切り口で営業活動に役立つ形で営業スタッフに提供したい」
また、今回のシステム整備によって蓄積したノウハウを基に、SalesForceの外販にも本腰を入れる計画。SalesForceは同社の業務の高度化のみならず、同社の収益源としても大きな役割を果たしそうだ。
| PROFILE | |
|---|---|
| 名称: | 株式会社レモン |
| 設立: | 平成10年2月23日 |
| 本社所在地: | 東京都新宿区荒木町14 第五新菱ビルヂング |
| 資本金: | 4億円 |
| 売上高: | 34億円 |
| 事業内容: | 人材派遣サービス業、アウトソーシング業、IT事業、マルチメディア事業、福祉事業など |
| URL: | http://www.with-lemon.com/index.html |