現役コンサルタントが語る
今回のポイント
開発内容・発注金額が小規模のシステム開発は、いわゆるソフトウェアハウスと呼ばれる開発会社に発注することが多い。しかし小規模とは言ってもトラブルになりかねない落とし穴は存在する。事例を見ながら検証してみよう。
ここで紹介する事例は、ある教育機関が発注元で(仮にA校としておく)、元請はB社という、事務処理のアウトソーシングを得意とする会社である。B社はA校で発生する事務・雑務を一手に引き受けており、経理処理や集計業務、外部講師の管理などが主な業務であった。A校とB社は10年近い取り引きがあり、その間A校の担当者は数回代わっているがそれによるトラブルもなく、両者の関係は非常に良好であった。
しかしA校のWebサイトを大幅に修正することになり、それに伴って根本から見直すというプロジェクトで問題が発生した。A校はWebサイト改定をB社に相談したが、B社は事務処理が専門であり、Webサイトの作成などに関してはまったくの専門外。そこでB社は日頃から付き合いのあるソフトウェアハウスに依頼することにした。
B社はソフトウェアハウスをA校に紹介し、Webサイト改訂については、全面的に任せる了解を得た。しかし、A校としては、外注管理の一元化を望んでいたので、そのソフトウェアハウスはB社の下請けとしてB社と契約書を交わすことになった。ただ打ち合わせなどで毎回B社を通すのは時間的、そして労力的にロスがあり、何より伝達の食い違いなどが発生するおそれもある。そこで打ち合わせに関しては、A校とソフトウェアハウスが直接行なうこととし、3者もそれで納得した。ソフトウェアハウスに専任の担当SEを置いたことは言うまでもない。
A校とB社間は、通常と同じく年間契約の事務処理で契約。違いと言えば項目としてWebサイト改訂が盛り込まれた程度であった。B社とソフトウェアハウスは、A校に対してソフトウェアハウスがヒアリングを行ない、修正する範囲や使用をある程度固めたところでB社に対して見積もりを提出した。ソフトウェアハウスからの見積額はB社も納得できる範囲だったので、注文書・注文請書と取り交わし、契約は成立した。
実際の修正作業・新たなWebページの開発には、ソフトウェアハウスとA校の担当者が連絡を蜜に取り合い、スケジュールに沿って進められていった。事務処理では長年アウトソーシングしているA校ではあったが、やはりシステム開発・IT関連の発注は慣れていないらしく、作業を進め進捗具合をWebページで確認すると、色々な要求が出てきた。
A校としても、事前にしっかりした企画などがあったわけではなく、「大体こんな感じで……追加したいのは、これとこれ」という、かなりアバウトな方針だけを持ち、あとは開発しながら意見を出してい……という姿勢であったようだ。
ソフトウェアハウスもあとから意見が出てくるのは、担当SEの経験からしても容易に想像できた。追加要求にいちいち「仕様追加なのでその部分について見積もりを」という話も避けたいので、ある程度の量がたまったところで、B社を通じて見積もりの再考の話をした。A校としても、いいものは導入したいし、ある程度経費がかかるのは仕方ないという考えがあり、すべてが終わったらまとめて請求してくれればいいということであった。B社もそのままソフトウェアハウスに伝え、しかも、いままでのA校との事務処理の請求においても、突発的な事案などもたびたびあり、調整はできるものと考えていた。
開発も終わり、A校にとって満足するWebサイトに仕上がった。担当したソフトウェアハウスを紹介したB社もまんざらではない様子だ。
しかしゴタゴタが始まったのは、検収も終わりソフトウェアハウスからB社に対して請求書が届いてから。B社から見ると予想をはるかに上回る額で、そのままA校に請求しても厳しい対応になると予想された。ただそのままにしておける問題ではないので、まずはA校の出方をみるべく、Webサイト改訂に関する請求額を提示してみたのだが、その額は当初の見積もりの1.8倍にも膨れあがっており、当然のごとくA校は驚きを隠さなかった。
B社は追加の費用が発生することはA校に伝えてあり、それに対して後でまとめて請求してくれればいいという返答をもらっていた。しかもB社を通じてこの話を聞いたソフトウェアハウスは、追加要求に対する請求は了承済みだと思っていたわけである。
ソフトウェアハウスは、A校、B社に対し、請求額の妥当性を説明した。同じ日数でも、単純にタグを記述するだけの作業と、FLASHなどを用いて動画を作成するのでは、単価が違うこと。あるページの機能を実現させるために、いくつものCGIを始めとするプログラムがいくつか動いており、ページ単価×ページ数だけで算出できる額ではないことなど。後はA校、B社が納得するかどうかである。
結局はA校の予算範囲内まではA校がきちんと負担し、それを超えている部分については、A校とB社とで折半、さらに請求額を少し値引きしてもらった額を支払うことで落ち着いた。
文章にして、第三者的な目で見ると、このケースでは何が問題だったかは明らかである。しかし、そのときの雰囲気や現場の空気の中にいるとこういうケースは起こり易いのではないだろうか。最初から開発規模があまり大きくなかったというのも油断を生んだ要因のひとつである。
まず、この場合、ソフトウェアハウスとしては、いくらエンドユーザであるA校、直接の請求先であるB社が「まとめて後から請求してくれ」と言っても、そのときの追加仕様でいくらくらいの追加額になるか知らせるべきであった。A校も「あとでまとめて」と言わず、追加要求する度にどれくらい掛かるのか、せめて予算があるのなら上限を伝えておくべきだっただろう。B社も本当にいくら掛かってもいいのかを確認するなど、こうした事態を防ぐポイントはあったはずだ。規模が小さい開発でも決めることはきちんとしておくべきであるという、代表的な事例である。