現役コンサルタントが語る
今回のポイント
クライアントから、当初の要求に加えて新たな機能の追加が求められた。プロジェクトリーダーである担当SEは、その追加要求も満たした企画提案書を提出。しかし問題となったのは、金額が当初の予算をはるかにオーバーしてしまったことだ。こうした場合、SEにはステークホルダー(利害関係者)との間で調整を図るコミュニケーション能力が必要になる。
システム開発において、プロジェクトリーダーに求められるものの1つがコミュニケーションスキルだ。たとえば、ユーザーから要望を聞き出すためのヒアリング能力などが、コミュニケーションスキルの1つとして捉えられる。また、ユーザーからの要望を具現化し、それをユーザーに説明するプレゼンテーション能力も重要だ。今回の事例は、SEのコミュニケーションスキル不足がトラブルの要因の1つと思われる内容である。
さて、本題に入ろう。システムを発注したのは多くの人材を客先に常駐させて業務を行なうことを専門に行なっている会社(仮にA社とする)で、約3800人の客先常駐社員を揃えている。その管理は、本社の間接部門数十名で行なっていた。客先に常駐する社員は、先方での仕事内容や要望に合わせて、5名程度から100名単位までさまざまである(A社では20名以下の常駐先を「分室」、それを越える人数を置いている場合は「分社」と呼んでいる)。今回のシステムは、その約3800名の常駐社員の管理全般を行なうためのものだった。
システム開発の窓口には情報システム部の担当者があたり、私は別の仕事で間接部門と関わっていた。ただしまったくの他人事ではないので、システム開発の発注先選別や企画書の内容についてなど、何かと相談されていたが、当初は積極的に関わることはなかった。
今回のシステム化は、分室・分社にいる社員の包括的管理システムを構築するように情報システム部が指示を受けたことに端を発する。そこで情報システム部において、勤怠管理から始まり最終的には給与計算まで自動化できる企画書が作成された。
企画書ができた段階で相談を受けた私は、「主機能については非常にシンプルにまとまっていると思います。これをもとにSEと打ち合わせを進めていけば、必要な機能や処理などが自然と分かってくるでしょう」と述べた記憶がある。事実そのようになった。
まず勤怠管理を各分室・分社のリーダーが所有するモバイルPCで管理し、締日にはデジタルデータとしてネットワークで本社へ送る。そのデータをもとに給与計算するという流れだ。
ただ、勤務表には出退勤の時間だけでなく、有給休暇や直行直帰、本社都合による外出などさまざまなデータが含まれる。そこで必要になるのが、人事データや勤務状況ファイルである。人事データには有給休暇の残り日数や基本給などの基本データ、役職区分やそれに応じた情報が入っている。こういった情報をデータベースとしてどう構築するかは、設計の段階で行なう作業である。
ただ、分室・分社間の異動や、常駐先の都合に合わせるため単月内でも出勤時間が異なる場合があったりなど、細かい設計は多岐に渡るのは目に見えていた。しかも社内運用ルールが細部にまで渡って決められているものをシステム化するのではなく、システム化をきっかけに社内運用のルール作りを行なうのでより一層大変な作業になることが予想された。
情報システム部と開発会社のSEとで週2~3回のペースで打ち合わせを行ない、2カ月あまりを費やしてA社も要望を出し尽くしたというところで、開発会社がいよいよ企画提案書の作成作業に取り掛かる段取りとなった。
提出された企画提案書は全般的にA社の要望をきちんと反映させており、質の高いサービスを提供しようという姿勢が随所に感じられた。特に処理が集中する機能については事前に検証も行なっており、技術的な裏づけも記入されており、かなりできるSEという印象を受けた。
企画提案書を受け取った情報システム部では、見積書とともに担当役員に報告と判断を仰いだ。一連の処理フローや細かい機能の説明については情報システム部の担当者が行なったが、その内容は役員を非常に満足させるもので、取締役会でもすぐにシステム化へ向けてGOサインが出たとのことだ。
ただ問題は、A社の社長がシステムの拡張を強く要望したことだった。その内容は、各社員の取得資格、経験業務、ツールやソフトについての知識と経験などを有効活用するというものだ。
今までは、常駐先から人員増員の要望や新規常駐先を開拓すると、事業部の責任者が適材者を探し出し現場にアサインするといった形で対応していた。これは決して効率もよくなければ、本当に人材を活かしているかどうかも分からなかった。そこでまず人材に関するデータベースを構築し、求められるスキルや経験などをもとに検索し、抽出された人材から各プロジェクトマネージャーとの相談を経て人事異動が行なわれるという仕組みを今回のシステムの機能として取り入れたいということであった。
当時から人材有効活用の必要性はよく耳にしていたが、システム化して具体化させている企業はほとんどなかった。私も話を聞いて有効活用されればA社にとっても、常駐先にとっても画期的なシステムになると感じていた。