現役コンサルタントが語る
今回のポイント
画期的な営業支援システムを企画したが、システム導入推進派の熱意が現場には伝わらず、できあがりつつあるシステムと最初の発注内容に相違があった。よいシステムを構築するには、全社を挙げてシステム開発に協力する、社内体制の確立が重要だ。
システム開発に多く見受けられるトラブルの代表例として、発注側の要求を満たしていないというものが挙げられる。しかも要求が満たされていないことを、設計中(プログラムを作成する前)に気付けばまだよいが、膨大な量のプログラム開発が終り、最終のテスト段階で発覚することも多い。そうなると問題の解決は困難になるし、場合によっては余計な出費をすることになりかねない。
画面が見づらいとか、処理スピードが遅いという程度の問題なら大したことはないのだが、実務に則してない、実用に耐えないというのでは話にならない。今回はそんなトラブル事例を紹介しよう。
システム発注をしたのは部品製造の中堅会社。仮にA社としておこう。A社はあるシステムインテグレータ(SI)に、製造工程管理と在庫管理を兼ねたシステムを発注した。このシステムの最大の売りは、営業マンが客先で受けた突発的な追加注文にも、モバイルPCを用いて受注可能かどうかを調べられること。さらに、受注できる場合は納期を即答できるという、当時としては画期的なシステムだった。それまでの同業他社を含めた製造管理は、ライン製造の現場に任されており、ユーザーの急な注文に対して納期までを含めて回答するためには社内調整が必要で、2~3日を要していたのである。
ユーザーサイドもダメ元で急な追加注文を依頼している面があり、いわば業界全体として「急なリクエストは難しい」という雰囲気が生まれていた。こうした状況において、営業マンが受注の可否や納期を即答できるシステムが構築できれば、他社との差別化を図れる、戦略的な営業支援ツールとなる。
私がA社に出向いたのは、プログラミング工程も終盤にさしかかり、そろそろ結合テストをしようという段階になってのことであった。A社の情報システム部に所属する発注担当責任者の話は、「自分たちの望んでいる内容とは違ったシステムになっているらしく、どうするべきか悩んでいる」とのことだった。
発注内容とできあがりつつあるシステムの最大の相違点は、営業マンが急に受けた注文が、在庫分で処理できなかった場合の処理だ。こうした大量な注文があったとき、ライン製造に特急指示で依頼する場合の仕組みが違うとのことだった。
同社が望んでいたのは、日々のライン製造工程にさほど影響を与えず、追加注文にも対応できてユーザーの満足度向上に寄与したいというもの。ただ、2時間ほどこうした話を聞いたのだが、私自身、頭の中で明確なシステムのイメージを描くことができなかった。
そこでこのプロジェクトの責任役員にシステムの狙いを聞いてみると、通常のライン製造スケジュールの合間をついて、突発的な大量注文をさばけるようにすること、ということであった。この役員によれば、ライン製造はいわば職人の世界であり、たとえ役員といえども部門が違うと迂闊に口を出だせない雰囲気があるらしい。そこで今回のシステムでは、顧客満足度を高めるために、聖域と化した製造現場に、営業サイドからも指示を出せるようにしたいというわけだ。これらを勘案すると、製造現場の協力なくしてシステムの成功はあり得ないことになる。
さらに、ライン製造の責任者にも話を聞いた。システム化担当役員の話を聞いて想像していた、気難しい人物ではなく、品質に対する自信と製造スケジュールを管理するという責任感を持っている仕事人という印象を受けた。
彼に聞いた話では、役員からは「システム化するにあたって情報システム部と開発会社となるSIに協力してくれ」と言われただけだったとのこと。一応SIからは数回のヒアリングを受けて、部品ごとの在庫率、各ラインの稼働率と週単位のスケジュール、納品先約300社の受注状況の資料を渡したとのことであった。これでは、とてもではないがユーザー部門の意見も十分に取り入れたシステム開発とは言えない。
こうして話を聞いた結果、情報システム部を中心としたシステム化推進派と、ライン製造部署との連携がまったく行なわれていなかったことが分かった。ライン製造の現場では、システムに対する理解がまったくなく、現場の責任者でさえ会社にとってこのシステムがどれだけ重要であるかを認識していなかった。
こんな意識では、いくらSIがいいシステムを作ろうと努力をしても、実のある話が聞けるはずもない。現場としても、面倒臭い作業を押し付けられるくらいにしか感じられないだろう。ここが鍵となって、発注内容を満たさないシステムになりかけていたのである。
そこで、システム化プロジェクトの責任役員とライン製造の責任者、そして私の3人で話し合いを行なった。役員からは「わが社の製品の質の高さには役員以下社員全員が自信を持っていること」「急な大量注文でも現在の質を保ったままユーザの要求に応えられることが、今後の受注拡大の決め手になること」「他社では真似のできない製造管理スケジュールシステムを構築し、会社を発展に導くこと」など、さまざまな話を聞くことができた。
一方ライン製造責任者は、今まではシステムが工程管理を混乱させるものというイメージを抱いていたとのことであった。それまでにシステム化するメリットや、会社の経営方針などを一切聞く機会がなければ、こうした意見ももっともだと言える。しかし、この話し合いの中で役員から直接システム化の意義を聞くことにより、ライン製造責任者の誤解も氷塊したようだ。