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第7回 はじめてのトラブル
~貸し倒れと連鎖倒産~


会計の勉強は大切だけど、そうそう時間を割いていてもいられない。僕は1ヶ月分の入出金を月末に記帳し、仕訳することにしていた。しかし月末、いつも通り近所のATMへと記帳に出かけた僕は、通帳の記録をみて愕然とした……。

貸し倒れで
倒産の危機!?

 経営者たるもの、毎日の入出金を細かくチェックしていなくても、頭のなかで大雑把には把握しているものだ。しかし銀行のATMで記帳をした通帳を見ると、自分が思っていたよりも預金残高がかなり少ないことが判明した。僕は急いで会社に帰り、ここ1カ月の入出金を細かくチェックしてみた。個人のお客さんからの月末の入金分は問題ない。もしかして……。

 僕の悪い予感は的中した。そう、2カ月前から取引を始めた「レストランMuse」の高島オーナーから受け取れるはずの20万円が入金されていなかったのだ。確かに野菜は出荷したし、請求書も送った。しかし、何度見直してもMuseからの入金は見あたらなかった。

 少し気が動転したが、単に振込を忘れているだけかもしれない。僕は深呼吸をして、Museに電話をかけてみた。

 ププ、ププ……。レストランに電話をかけてみたが誰も出ない。高島オーナーの携帯電話にもかけてみたが留守電になっている。僕は仕方なく、メッセージを残して電話を切った。

 しかし、数時間たっても返事はない。だんだんと不安になってきたが、こういうときこそ落ち着いて対処しなければと思いつつ、アドバイスを求めるべく平林先生に連絡することにした。

僕 実はMuseからの入金がないんです。どうしたらいいでしょう。

平林先生 そうですか……。はじめてのことですし、相手も単に忘れているだけかもしれませんから、まずは連絡を待ちましょう。

僕 もしも入金されなかったらどうなるのですか?

平林先生 万が一、先方が倒産するなどして売掛金が回収できなくなることを「貸し倒れ」といいます。そうなったらもう、あきらめたほうがいいでしょう。中小企業同士の取引では、1つの貸し倒れが、次々と取引先の倒産を引き起こす「連鎖倒産」なども珍しい話ではありませんし(図1)。

図1●貸し倒れと連鎖倒産
図1●貸し倒れと連鎖倒産(画像クリックで拡大)

僕 貸し倒れ? 連鎖倒産? 冗談じゃないですよ。今月分も出荷してしまったから、2カ月分のお金を受け取れない可能性もあります。うちにとって、40万円は大金なんです!

平林先生 落ち着いてください。「万が一」の仮定の話ですし。ちなみに、もしも貸し倒れが確定したときには、試算表の売掛金を消して、「貸倒損失」という費用の勘定科目にすることになります。

借倒損失

僕 こんなときに冷静に仕訳の話なんか聞いていられませんよ。もう一度、高島さんに電話してみます!

 僕はそう言って電話を切ると、もう一度高島さんに電話をかけてみた。しかし、受話器の向こうには留守番電話の案内が響いていた。

前払いや保証金で
危険を回避

 その日の夜、平林先生からメールが届いた。

ネットDeベジタブルは、お金も十分にあるし、40万円の貸し倒れでは倒産しませんから大丈夫です。良い勉強の機会と思って、落ち着いて対処しましょう。また、今後は代金を前払いにしたり、保証金のようなものを受け取っておくといいでしょう。

 メールを見て少し冷静さを取り戻した僕は、試算表と通帳を見た。そうだ。個人のお客様からは毎月きちんと入金されていたし、Museだって最初の月はきちんと支払ってくれた。現金預金の残高も、数カ月間の経営には十分耐えられる。逆に、この経験を今後の取引に活かしていかなければと思った。

 翌日、朝早くから僕の携帯電話が鳴った。高島オーナーからだ! 高島オーナーによると、どうやらうっかり振込を忘れていただけらしい。今朝、早速送金したとのことだった。

 何度も何度も謝る高島オーナーに対して、僕は代金の支払について相談してみた。結局、今回は、これまでの条件通りということで落ち着き、再び入金が遅れたときには何かしらの対処をするということで落ち着いた。平林先生には「甘い!」と言われそうだけど、はじめて取引をしたレストランを僕なりに大切にしたかったのだ。  それから僕は、記帳してきた通帳のデータを仕訳した。最終的に、月末時点で以下のような試算表が完成した。

計算表

 僕はなんだか、経営者として一段成長できたような気がした。

平林先生 もう1ランクアップ! 今月のキーワード

貸し倒れと貸倒引当金

 取引先が倒産するなどして、売掛金が回収できなくなることを「貸し倒れ」といいます。代金を受け取る約束として、手形を受け取っていた場合には、特に「不渡り」と呼びます。

 貸し倒れが生じた場合、売掛金は「貸倒損失」となります。これは、丸々損をしてしまうということです。そのため会社では、貸し倒れが生じないように取引先について審査をしたり、事前に手付けを受け取るなどの策を講じることがあります。

 ところで、取引先が法律上倒産するといった理由で貸し倒れが確定するまでは、通常、売掛金を消さずに処理をすることになっています。具体的には、貸し倒れるかもしれない可能性を「貸倒引当金」として見積もり、売掛金の金額から間接的に控除するように処理するのです。

 たとえば、帳簿上は「売掛金:40万円、貸倒引当金:1万円」とし、売掛金は40万円あって、そのうち1万円は貸し倒れるかもしれない金額としておきます。実際、取引先の経営状態は徐々に悪化して、最終的に倒産にいたることが多くあります。よって、悪化してきた段階で貸し倒れの可能性を見積もることが可能であり、重要でもあるのです。

文●平林亮子
お茶の水女子大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所し、国内企業の監査に多数携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。楽しく幸せに生きるをモットーに、企業、個人を問わず会計面からのサポートを行なっている。

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