
気がつけば開業してから半年が過ぎようとしていた。商品の出荷も、代金の入金も、今のところ大きなトラブルはない。ここまではなんとかやってこれたな……。しかし、実際にはいくら儲かっているのだろうか?
僕は会社の預金通帳を眺めながら、開業してからこれまでのことを思い返した。300万円を貯めた後にそれまで勤めていた会社を退職し、自分の会社を設立。野菜は順調に売れているし、代金もきちんと振り込まれている。
なんとかビジネスを続けていけそうだと思いながらも、僕の頭にふと疑問がわいた。そういえば、今、いくら儲かっているんだろう? 毎月の売上は、個人のお客さんからのものが60万円だ。一方、野菜の代金は30万円。また、その他の人件費や出荷費用もかかっている。そういえば先月からは、新たにレストランとの取引も行なうようになったのだっけ。
僕は頭がごちゃごちゃしてきたので、平林先生に助けを求めることにした。携帯電話に出た先生へ、ストレートに質問をぶつけてみた。
先生。結局、今のところいくら儲かっているのでしょう?
それは「試算表」を見れば分かりますよ。
試算表というのは、お金のデータを集計した一覧表ですね?
その通りです。試算表を見れば、これまでの経費や売上の金額が集計されていますから、その差額で利益が計算できるというわけです。
また、経費のことを正確には「費用」、売上などの儲けを「収益」といいますが、費用は試算表の借方に、収益は試算表の貸方に集計されています。
そしてその差額が、利益というわけですね。
試算表(図1)を見てみた。これによると、僕は現時点で30万円儲かっているということが分かる。
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| 図1●試算表と利益 |
試算表は、取引*1を集計した一覧表なのですが、借方や貸方にどのような内容を記載するのか、あらかじめ決まっているんですよ。
*1●取引
会社の中で、現金や財産が増減すること。現金や預金の増減がある場合のみならず、備品を捨てたという場合も、会社の財産が減少するということで取引となる。また、火事で商品が焼失したといった場合も、人為的なできごとではないが取引となる。
費用は借方、収益は貸方なのですね。
はい、そうです。さらに、現金や備品など、会社の持ち物は借方。現金を受け取る権利である売掛金も借方です。
一方、現金を手に入れた理由である、資本や借入は貸方。現金を支払う義務である未払金や買掛金も貸方になるんです。
なるほど。各項目は、記載される場所があらかじめ決められているということですね。あれ? でも、現金は貸方に出てくることもありませんでしたっけ? 確か、パソコンを買ったとき(第2回目連載参照)とか。
そうですね。本当は現金は常に借方なので、借方のマイナスとしたいところなんです。でも、縦に並べると分かりにくいので、仕訳*2のときは借方のマイナスではなく、貸方にプラスの金額で記載すると決まっているんです。
*2●仕訳(しわけ)
取引を現金預金や、現金預金の増減の理由にそれぞれ分類し、借方と貸方に分けて記載する記録方法を「仕訳」という。それぞれの項目は、いずれに記載されるべきものか決まっているが、金額をマイナスする場合には、一時的に反対側に仕訳される。
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この決まりは、買掛金を支払って、買掛金を消滅させるときも同様です。本当は、現金を借方のマイナスにして、買掛金も貸方のマイナスにしたいのですが、マイナス記号を使うと分かりにくくなるので、それぞれ反対側に記録するのです
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それぞれの項目はあらかじめ借方か貸方か決まっていて、その通りに仕訳される。マイナス記号が付く場合は、逆側に仕訳すればいい。そして、その仕訳を集計することで、ルール通りに試算表ができあがるということだ。
それでは、レストランから代金20万円が振り込まれたときには、どう仕訳したらいいか分かりますか?
え~と、現金預金は借方ですよね。そして実際に振り込まれれば権利がなくなるから、売掛金をマイナスにしなければならない。売掛金は借方にあるべきものだから、マイナスにするためには貸方に記録するのでしょうか?
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その通りです! そして、その仕訳を集計したものが試算表ということになります。だから、試算表を見れば、これまで何があったのか、これからどうなるのかを読み取ることができるんです!
試算表はビジネスの履歴であり、これからの予定表でもある。そんな平林先生の言葉が耳に残った。今までわけも分からず仕訳をしてきたが、仕訳を集計すると、すべての情報が試算表に集約されるということだ。僕はそんな試算表を眺めながら、これからはより売上を伸ばして、もっと儲けようと決心した。
取引を記録するための「帳簿」は、さまざまなものがあります。その1つが「仕訳帳」です。会社内のすべての取引は、仕訳帳の借方と貸方にルールに基づいて記録されていきます。
そして、仕訳帳のデータは「総勘定元帳(そうかんじょうもとちょう)」というノートに「現金預金」「売掛金」「工具器具備品」といった項目ごとに集計されることになっています。仕訳帳に記録された取引は、すべて総勘定元帳に書き写されるということです。なお、こうした仕訳帳や総勘定元帳のように取引を記録するためのノートを「帳簿」というのです。これらの帳簿は、すべての会社で作成しなければなりません(ただし本文では、総勘定元帳を省略しています)。
総勘定元帳では、現金預金の金額、売掛金の金額といったように、それぞれの項目ごとに集計されているので、会社全体がどのような状態にあるのかは、それらの項目を一覧表にした「試算表」によって把握することになります。そして最終的には、試算表の金額から収益と費用を抜き出して「損益計算書」という利益を計算するための一覧表と、残りの項目を抜き出して資産を把握するための「貸借対照表」という一覧表を作成することになります。この損益計算書や貸借対照表などの、会社の状況を把握するための一覧表を「財務諸表(決算書)」といいます。
文●平林亮子
お茶の水女子大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所し、国内企業の監査に多数携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。楽しく幸せに生きるをモットーに、企業、個人を問わず会計面からのサポートを行なっている。