
無事に野菜を仕入れたのはいいが、本当に売れるのだろうか。ホームページ開設後、そんな不安を抱えながら、お客さんからの注文のメールを毎日確認。ようやく1人、2人と注文が入るようになり、ビジネスが軌道に乗り始めたのだが……。
今日は第1回目の出荷日。倉庫に届いた野菜を梱包し、宅配便で発送する日だ。雇ったアルバイトは10人。手分けして梱包や発送をしたが、慣れないせいもあって無事出荷を終えた頃には、もう日が暮れようとしていた。
アルバイト代の総額7万円をその場で現金で支払って解散すると、僕はすっかり気が抜けてしまった。しばらくの間、倉庫で1人座り込んでいたが、携帯電話の呼び出し音で我に返った。
出荷は無事終了ですか?
無事に済みました。もうへとへとです。
アルバイト代は支払いましたか?
はい。しつこいようですが、これは経費ですよね?
そうです。アルバイト代を支払ったときには「給料手当」という経費になります。その他、一般的な経費としては、こんなものがあります(表1)。そういえば、宅配便の代金はいつ支払うのですか?
今月、もう1回出荷しますから、その分と合わせた1カ月分を、翌月末までに支払います。これも経費ですよね?
もちろんです。支払いは翌月ですが、あくまでも今月の経費とする点には注意しなければいけませんが。
お金を後で支払うので、「買掛金*1」を使うのですか?
*1●買掛金
商品をツケで購入し、後から代金を支払うとき、その支払義務を「買掛金(かいかけきん)」という。企業同士の取引では、どのような支払条件とするかあらかじめ契約を結び、それに基づいて取引を行なう。その契約に基づいて、買掛金が記録されることになる。
考え方は同じです。買掛金とはちょっと違いますが、もう1回出荷が終わったときまとめて処理しましょう。
| 勘定科目 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
|
給料手当 (給料賃金) |
給料、賃金など | 従業員への給料、各種手当 |
| 外注費 | 外部に注文して支払った場合の加工賃 | 下請業者への代金 |
| 地代家賃 | 土地や建物に対する家賃など | 事務所や工場、倉庫、店舗などの家賃 |
| 水道光熱費 | 電気、ガス、水道代 | 電気、ガス、水道代金 |
| 広告宣伝費 | 会社を宣伝するための費用 | 新聞、雑誌などの広告費、社名入りカレンダーなどの作成費用 |
| 福利厚生費 | 従業員の保険や慰安のための費用 | (適正な金額内での)社員旅行代金、健康診断料 |
| 修繕費 | 建物や備品などの修理代 | ガラスの取替代金、備品の修理代 |
| 支払手数料 | 各種手数料の支払 | 仲介手数料、振込手数料 |
| リース料 | 備品などのリース料、レンタル料 | パソコンのリース料 |
| 保険料 | 会社のための保険料 | 火災保険料 |
表1●経費の種類
同じ月の下旬、無事に2回目の出荷を済ませると、平林先生に連絡した。
2回目の出荷も無事終わりました。
そうですか。お客さんからの代金はもう振り込まれましたか?
振込期限は月末ですから、月末に確認します。
分かりました。厳密には、出荷したときに売上としますが、当月中にお金が全部振り込まれるなら、その時に売上とすれば十分です。では、確認でき次第連絡をくださいね。
そうなると今日はアルバイト代の支払いと、宅配料金を記録する必要があるということですか?
そうです。現金がアルバイトの労働力に変わりましたから、現金を「給料手当」に。宅配するというサービスに変わった分は、現金の代わりに「未払金*2」を使って「荷造運賃」に。その結果、一覧表はこう変化しますよ!
*2●未払金
商品の仕入代金以外の経費について、後から代金を支払うとき、その支払義務を「未払金」という。たとえば、水道光熱費などの経費は、利用した分だけあとから代金を支払うのが一般的だ。このように後から代金を支払う場合でも、あくまでも利用した月の経費として記録するのが原則である。商品の仕入代金を後から支払う場合は「買掛金」と記録するが、その他の経費の場合は「未払金」とします。
お金が労働力や宅配サービスに変化したということですか?
はい。また、商品を仕入れたときは買掛金を使いましたが、その他の経費では未払金を使います。
つまり未払金も、お金を支払う義務という意味があるのですね
そのとおりです。それからもう1つ、契約農家への振り込みをした際の処理も見ておきましょう。契約農家への振り込みは、身代わりとなっていた買掛金を現金に置き換えます。
なるほど。身代わりだった買掛金がなくなって、現金がその分減るわけですね。
そのとおりです。宅配便の代金を振り込んだときも、同じ要領で記録します。
倉庫を出ると、もう外は真っ暗だった。出荷も無事に終わったので、あとはお客さんからの入金を待つだけだ。しかしもし、きちんとお金が振り込まれてなかったら……。僕の不安は増していった。これまでの疲れも重なって、僕の足取りは急に重くなった。
「経費」という言葉は、さまざまな意味で使用されます。その1つが、会計上の費用や税務上の損金を含んだ、広く会社で必要になる支出という意味で使われる場合です。ただしこの場合は、厳密な内容を表わしていないことが多くあります。また、会計上の費用という意味で使用される場合もあります。本文の「経費」か「経費でないか」は、この意味で使用しています。
さらに、「原価」と区別した一般経費であるという意味で使用されることもあります。費用のうち、商品を仕入れるために直接必要な仕入代金などを「原価」といいますが、商品を販売するために必要になる人件費や水道光熱費などの費用を「経費」と呼んで、原価と区別することがあるのです。
加えて、税務上の損金になるかどうかを「経費になるかならないか」と表現することもあります。特に、取引先との付き合いに必要になる「交際費」は、会計上は費用になりますが、税務上は損金とならない場合が多くあります。そこで、その交際費が税務上の損金となるかどうかを「経費となるかどうか」と表現することもあります。
「経費」という言葉がどのような意味で使われているかは、そのときどきによって注意が必要です。
文●平林亮子
お茶の水女子大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所し、国内企業の監査に多数携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。楽しく幸せに生きるをモットーに、企業、個人を問わず会計面からのサポートを行なっている。