
インターネットによる野菜販売のアイデアを思いつき、起業して社長となった僕。会社名は「ネットDeベジタブル」。農家である実家と、その近所から野菜を仕入れる約束は取り付けた。次は、業務に必要な機材を整えよう。
僕は自宅の一室に「ネットDeベジタブル」の看板を掲げ、いよいよ会社として動き出した。まず必要なものはパソコンだ。僕は元IT機器の営業マンだったので、パソコンの1台や2台持っていないわけではなかったが、仕事とプライベートを混同しないために会社用のパソコンを用意することにした。前の会社にお願いすれば安く手に入るのだが、1日でも早くビジネスを始めたいと考え、量販店で購入することにした。結局、持ち運びにも便利なノートパソコンを1台購入した。
会社の預金からお金を引き出して備品を購入する。もとをたどれば単に自分の預金を使っただけなのだが、会社のお金を使うというのはなんだか興奮するものだ。その興奮もあって、僕はパソコンの購入を平林先生に報告した。
とりあえず自宅の一室で会社を始めることにしました。そして今日は、パソコンを購入しました。この購入代金は、会社の経費になるんですよね?
そうですね。パソコンの購入代金は、広い意味では経費なのですが……。いくらでした?
40万円です。ちょっと奮発しちゃいました。
40万円となると、そのすべてを一括で経費とすることはできないんですよ。
え? でも、会社のために支払ったお金ですよ。
会社の利益は、売上から経費を差し引いて計算します。そして、その利益に対して税金を支払うことになります。でも、パソコンの購入代金全額を売上から差し引けるわけではないんですよ。40万円のうち、経費にできるのは一部なんです。
それではいったい、いくら経費にできるんですか?
パソコンなど、1年以上使用するようなものは「固定資産*1」と呼ばれます。固定資産はそれを使用する期間にわたって、徐々に経費にすることになっています。徐々に経費にすることを「減価償却*2」といいます。
*1●固定資産
企業において、長期(1年超)にわたり利用する備品などのこと。パソコンなどの「備品」のほか、事務所や店舗といった「建物」、社用車などの「車両」、工場などで利用する「機械装置」などが固定資産にあたる。
*2●減価償却
固定資産を購入した場合、その全額を一括で経費にはできない。固定資産の使用期間にわたり、徐々に経費にしていく。固定資産の金額を徐々に経費にしていくことを減価償却という。
固定資産? 減価償却?
例えばパソコンの場合、通常、税法の規定にしたがって4年かけて経費にしていきます(図1)。理論的には、実際にパソコンを使う期間が分かればいいのですが、明確に決めておかないと混乱するために減価償却の期間が法律で決められているんです。これを「法定耐用年数*3」といいます。
*3●法定耐用年数
固定資産を減価償却によって徐々に経費にしていく期間を耐用年数と呼ぶ。理論的には「固定資産の使用期間=耐用年数」となる。しかし、固定資産をどれくらい使用するかは不明確であるため、資産の種類に応じた耐用年数が税法で規定されている。税法で規定された耐用年数が法定耐用年数というわけだ。
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| 図1●固定資産と減価償却(画像クリックで拡大) |
なんだか、わけのわからない言葉がたくさん出てきましたが、要するに、会社の備品などは一括で経費にできないということですね?
10万円未満の備品であれば減価償却の必要はない。また、現時点では一定規模以下の会社であれば、30万円未満の備品であっても経費にできる場合などもあるという。
いずれにしても、お金を使ったことを記録しておきましょう! 今回は、お金40万円がパソコン40万円に変化したと考え、こうやってノートに記録するんですよ。
あれ? 現金は確か、借方じゃありませんでしたっけ?
これによって前回の一覧表の現金300万円のうち、40万円をパソコン40万円に変えるんです。そうすると、こんな一覧表になります。
もしかして、左側、借方には、会社の持っているものが記載されているということですか?
そのとおりです! そしてこのパソコンを減価償却によって経費にするのですが、それについては、またあとで見ていくことにしましょう。
備品などの固定資産は、一括で経費にできない。そうなると、思っていたよりも利益が出てしまうことになるということだ。例えば、今回のパソコンで考えれば、40万円のうち約10万円しか経費にならないとすれば、利益は30万円も異なる。それに応じて税金も増えてしまうということなのだ。僕は、備品の購入1つとっても、税金のことなどを考えていかなければならないことを知った。まずは儲けることが一番大切だが、税法などを含めた法律や規則のことを知り、それに合わせた戦略を立てることが大切だ、という平林先生の言葉が耳に残った。
その夜、今日の出来事を頭の中で整理しながらパソコンのセッティングを終えると、ネットDeベジタブルのWebサイトの最終チェックをした。さぁ、いよいよ開店だ!
株式会社は、会社法の規定や会計理論に基づいて、1年間の売上と経費を集計して差額としての「利益」を計算します。売上を含む会社の儲けを「収益」といい、いろいろな経費を総称して「費用」と呼びます。最終的な利益を出すには「収益-費用=利益(マイナスの場合は「損失」)」となります。
一般的に考えると、上記の利益に対して税率を乗じることによって税金(法人税)を計算するように思われます。しかし、実は株式会社の税金(法人税)は、法人税法に基づいて利益とは異なる「課税所得」を計算し、それに税率を乗じて税金を計算し納付します。
会社の利益は、できるだけ会社の実態を表すよう業績を示す金額が計算されます。一方、課税所得は課税の公平性から会社の事情を考慮せず、明確に定められた規定に基づき計算されます。もちろん、両者はまったくかけ離れたものではなく、実際には利益に一定の調整を加えることで課税所得を計算し、税金を算出するのです。多くの場合、利益よりも課税所得のほうが金額が大きくなります。交際費や寄付金は、会計上は費用と認められます。しかし、税法上はこれらが費用として認められないケースがあります。その分だけ、利益よりも課税所得のほうが金額が大きくなるのです。
株式会社は、原則として会計上の利益をきちんと計算しなければなりませんが、中小企業では、この調整の必要がないよう、税法の規定に合わせて収益と費用を集計することもあります。
文●平林亮子
お茶の水女子大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所し、国内企業の監査に多数携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。楽しく幸せに生きるをモットーに、企業、個人を問わず会計面からのサポートを行なっている。