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第1回●僕は社長になった
~株式会社を設立する~


新会社法が施行された5月1日。それは、僕の運命の日となった……。本連載は、会計士である平林先生に相談を受けつつ、主人公である「僕」が起業する過程をストーリー仕立てで見ながら、会社の仕組みをわかりやすく解説していきます。

新会社法をきっかけに起業を決意

 大学を卒業し、現在の会社に入社して約10年。IT機器の営業マンとして、クライアントに頭を下げる日々。この先にいったい何があるんだろう。そんなことを考えていたある日、学生時代の友人に誘われて新会社法に関するセミナーに参加した。講師は若い女性会計士で、彼女が言うには新会社法のもとでは会社が非常に作りやすくなるらしい。また、少額の資金でもビジネスを始めやすくなっているという。

 「もちろん、サラリーマンよりも起業することが必ずしも立派だとは思いません。しかし、大企業でさえいつ倒産してしまうか分からない時代。誰もが経営者の意識を持つべきではないでしょうか」。そんな言葉で講演は締めくくられた。僕はもう少し詳しい話を聞くために、講演後に彼女のもとへ近づいた。

僕あの、どれくらいお金があれば、会社を作ることができますか?

平林先生それは、どんなビジネスをするかによります。法律上は資本金1円でも会社を作ることができます。

僕資本金? 資本金って何ですか?

平林先生会社を設立するための元手、自己資金のことです。例えば、家を買うときは、自己資金と住宅ローンを合わせて買いますよね。会社設立にも同じようにお金を用意するんですが、自己資金のことを資本金というんですよ。これまでは、株式会社を作るには1千万円必要*1だったのですが……。

*1●株式会社を作るためには1千万円必要
新会社法施行前でも、特例を利用すれば、資本金1円で株式会社を設立できる。

僕い、1千万円!?

平林先生新しい会社法が施行されれば、1円でも株式会社が作れるんです。しかも、これまでは役員が最低でも4人必要*2だったのですが、1人でも起業できるようになったんです。

*2●役員が最低でも4人必要
新会社法以前は、取締役が3名以上、監査役1名以上必要となる。

僕1円で、しかも1人で会社が作れるということですか?

平林先生実際には、会社を作る際の手数料や、ビジネスをするための必要経費がかかりますから、1円では無理です。ただ、そのビジネスの内容に合わせてお金を用意できれば、株式会社を作って社長にだってなれるわけです。

法律改正前 新会社法
資本金 1千万円以上 1円でOK!
役員 取締役3名以上かつ監査役1名以上必要 取締役1名でOK!
類似商号 同じ市区町村内で同業者が同一または類似の商号を使用してはならない(同業者では同じ名前を使えないということ) 悪意を持って使用してはならない(すべて禁止されるわけではなくなった)

表1●新会社法で株式会社の設立が簡単になったポイント

僕あの、またご相談に乗っていただくことは可能ですか?

平林先生はい。でも、私はいたずらに起業をお勧めするつもりはありません。よくお考えになって、本当に会社を作りたいということであれば、もちろんご相談に乗ります。

僕ありがとうございます。まずはどんなビジネスをしたいかですね。


 このセミナーをきっかけに、僕は漠然とではあるが、会社設立について考え始めた。それから数日後、野菜農家である実家の野菜を、インターネットで通信販売することを思いついた。そのことを、さっそく平林先生に相談してみると、資金計画やスケジュールを詳細に考える必要があるというアドバイスを受けた。

 それから僕の気持ちは、会社設立に向けて一気に加速した。しかし、資金計画とはいっても、正確な金額をはじきだすことは難しかった。そこで、平林先生の経験に基づく、小さな会社を1年間維持するための目安の金額である300万円からはじめてみることにした。新会社法が施行されたら、すぐに会社設立。そう決意すると、仕事をこなしながら会社設立の準備をする日々が始まった。

まずは「資本金」を明確化

 そして、今日が新会社法の施行日。新会社法になってより簡単になった会社の設立手続*3も、あっけなく終わった。僕は、無事に起業できたことを平林先生に報告した。

*3●会社の設立手続
会社を設立するためには、会社の憲法に当たる「定款」と、会社を登記するための「登記申請書」が必要になる。登記申請書には定款やその他の必要書類を添付することになっている。これらの書類を、本店所在地の法務局に提出する。

平林先生おめでとうございます。よかったですね。でも、これからが本番ですよ。会計データなどもきちんと把握しなければなりませんしね!

僕そういえば会計データって具体的にはどうしたらいいんですか?

平林先生細かいことは今後話すとして、まずは資本金300万円でスタートすることを、こうやってノートに一覧表として記録するんです。

一覧表

僕この「借方」と「貸方」とは?

平林先生とりあえずは、この一覧表の左と右をそう呼ぶのだと思ってもらえれば大丈夫です。

 数日後、僕は勤めていた会社を正式に退社し、社長になった。ビジネスの成功を確信し、未来への希望で胸がいっぱいになった。

平林先生 もう1ランクアップ! 今月のキーワード

「資本金」

 会社を設立し事業を行なうためには、そのための資金が必要です。その資金をたくさんの人々から出資してもらった会社を「株式会社」といい、出資してくれた人を「株主」といいます。

 資本金とは、株主からの出資によって集まった金額のことで、会社の規模を示す目安になります。多くの場合、資本金の金額が大きいほど、しっかりした会社とみなされます。また、資本金の額により税金の金額も変わってくるなど、さまざまな法律も関係してきます。株主から出資された金額を資本金とするのが基本ですが、設立に必要となった費用を資本金から差し引くこともでき、結果として資本金を0円とすることも可能です。また、株主から出資された金額のうち半分までは、資本金ではなく「資本準備金」という名前で処理することもできます。

資本金とは?
図●資本金とは?(画像クリックで拡大)

 なお、株主から出資されたお金は、商品の仕入れや給料の支払いに使われるため、資本金は現在残っているお金の金額ではないということも覚えておきましょう。

文●平林亮子
お茶の水女子大学在学中に公認会計士2次試験に合格。卒業後、太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に入所し、国内企業の監査に多数携わる。公認会計士3次試験合格後、独立。楽しく幸せに生きるをモットーに、企業、個人を問わず会計面からのサポートを行なっている。

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