2006年5月(頃)以後は、有限会社がなくなり株式会社に一本化されることを前回解説した。これによって資本金規制がなくなり、1円で株式会社設立が可能となるということであった。
今回は、その株式会社以外の組織形態、特に2005年8月1日からすでに設立可能となっているLLP(Limited Liability Partnership)=「有限責任事業組合」について詳しく解説する。
LLPとは2005年8月1日施行の「有限責任事業組合契約に関する法律」によってできた制度で、「有限責任事業組合」と略される。「組合」であるため、厳密には会社組織ではなく、ほかの形態である株式会社などのように法人格がない。いわゆる「民法上の組合」などと類似の制度となっている。どういうことかというと、LLP自身に法人格がないため法人税がかからない。つまりLLPのイメージとしては、複数の有志(個人でも会社でもいい)が出資をしてLLPを作って事業を行ない、うまくいけばその利益を出資者に分配し、課税は出資者それぞれに対して行なわれることになる。
LLPの特徴をまとめると大きく3つある。
まず1つ目の「有限責任」であるが、これは「組合員が原則出資した金額の範囲までしか責任を負わない制度」ということである。つまり、組合員(構成員、出資者)のリスクが投資した資金に限定されるので、事業に取り組みやすくなる。このことから、LLPという組織形態には、ハイリスク・ハイリターン型のビジネスが向いていると思われる。
2つ目のLLPの特徴である「内部自治の徹底」とは、「組合員の内部ルールを各組合員の話し合いで決めることができる」ということである。これには2つの効果がある。「出資額の比率とは関係なく損益・権限の分配ができる」ことがまず1つ。2つ目は「従来からある取締役会などの組織を作る必要がないため、柔軟な内部組織を実現できる」ことだ。
しかし、税理士の立場から注意を要すると思われる点がある。たとえば、出資額を各500万円として2人で1000万円のLLPを作った場合に、そのLLPで儲けた利益を半分ずつ分けるのではあれば問題ない。しかし、その利益を片方に多く配分するときには、「贈与税」が発生する可能性があるからである。これは、少ない配分を受けた人が多く配分を受けた人に金銭を贈与した、と考えられることに根拠がある。
「有限責任事業組合契約に関する法律」上は出資比率に関係なく損益の分配が可能と書いている。しかし、実際これを悪用すると不当な税逃れが行なわれる可能性がある。出資比率ではない基準で利益を按分することについて合理的な理由があれば、贈与税課税も問題ではなくなるのであろうが、実際にはこれについての詳細は国税庁から説明がなされていない。そのため、今後の動向に注意が必要だ。
次に「組合員課税」について説明する。これは冒頭にも書いたが、「LLPの事業で出た損益は、利益が分配された先の各組合員のもとで課税される」ということである。つまり、LLP自体に法人税が課税されることはない。課税されるのは、そのLLPに出資した各組合員となる。その組合員が個人の場合は所得税課税となり、法人の場合は法人税課税となる。
ここで、この新しい課税形態である「組合員課税」(民法上の組合組織の場合は、以前から採用されていたが)について、詳しく見てこう。まずは以下の表を見てほしい。
| 組合員が法人の場合 | |
| 利益の場合 | 法人の利益となり法人税課税 |
| 損失の場合 | 出資価額の範囲内で法人の損失になる。LLPから配当された損失>出資額の場合、その超過部分は翌年度以降のLLPの利益の額を限度として、損失の繰越可。 |
| 組合員が個人の場合 | |
| 利益の場合 | 個人の所得となり所得税課税 |
| 損失の場合 | 出資価額の範囲内で他の所得と損益通算可。 LLPから配当された損失>出資額の場合、その超過部分は切り捨てられ、繰越損失不可。 |
利益が出た場合の取り扱いは、組合員が法人の場合でも個人の場合でもほぼ同じ取り扱いである。しかし損失が出た場合には、出資者が法人か個人かでその取り扱いが異なる。異なる点は、LLPから配当された損失が出資額を超えた(つまり損失>出資額)ときの、その超過部分の取り扱いである。法人であれば翌期にその損失の繰越が可能になっているが、個人の場合にはその損失を翌年に繰り越すことはできない。
また、LLPは節税に使えるなどといった報道がなされているが、これには誤解があると思う。
こういった報道では、損失が出た場合にはその出資額の範囲内で他の所得と損益通算が可能となる点や、LLP自体に法人税かかることがない点を根拠としている。
しかし利益が出た場合、LLPに法人税がかからなくても各組合員には課税されるため、節税とは通常言えない。
また会社組織を作って節税するといった場合、一般的に活用されるのは「給与所得控除」だ。つまり、個人事業であれば自分に給料を払うことはできないが、法人組織にすると自分に給料を払うことができる。これにより、給与所得控除を受けることが可能になり、節税につながるわけだ。しかし、このLLPという制度では、各出資者に報酬を支払うことは原則できない。つまり、給与所得控除が使えないのである。この点は、非常に大事な部分であるので、ぜひ押さえておいてほしい。このように考えると、LLPが節税に使えるというのは、少し無理があると思われる。
先ほどLLPでは「給与所得控除」が使えないというデメリットをあげたが、それ以外にもLLPという制度のデメリットはある。たとえば、LLPは会社組織ではないため、途中で株式会社に変更したいと思っても組織変更することはできない。この場合、いったんLLPを解散して新たに株式会社を設立することになる。つまり、もともと無期限に事業を継続することを前提としたゴーイングコンサーン型のビジネスを想定しているのであれば、LLPで作ってはいけないということになる。また信用度が低いとみられる可能性も高いので、これもLLPのデメリットといえる。
なぜ信用度が低いと見られるのだろうか。たとえばLLPを2円で起業し小切手も手形も持たない場合、資金繰りが悪化しても債務を履行せずに開き直ることで支払いを引き延ばす可能性がある。その場合でも債権者は、裁判費用などを考慮すると待つしかないということになってしまうわけだ。
以下にLLPのメリット・デメリットをまとめておくので、参考にしてほしい。
LLPのメリット
LLPのデメリット
LLPで行なう事業の類型としては、以下のように(1)個人同士の協同事業、(2)個人と企業の共同事業、(3)企業同士の協同事業があるが、そのなかでも特に(3)企業同士の協同事業で、ジョイント・ベンチャー(JV)を行なう受け皿としての活用が有効である。
1.ベンチャー企業との協同事業
高度先端技術開発を行なうベンチャー企業と大手メーカーとの協同事業において、能力ある社員やノウハウのあるベンチャー企業に出資比率によることのない利益分配が可能となる。資金調達手段の1つとしても活用できる。
2.建設会社のジョイント・ベンチャー
大手建設会社と複数の中小建設会社がJVで大規模工事を請け負う場合において、LLPの有限責任及び柔軟な損益分配を活用することで、既存の業界のみならず他業界からの人的貢献及びサポートなどを受けることが期待できる。
3.大企業同士の協同事業
具体例として、JR東日本、NTTドコモ、NTTデータは、電子マネー「Suica」の普及を目的として、合計12億円を出資してLLPを設立する予定である。また半導体関連の大手メーカー各社がLLPによる共同開発の準備を進めている。
最後に、各組織形態の違いを表にまとめたので参考にして欲しい。
| 株式会社 | |
| 組織の形態 | 法人 |
| 構成員 (出資者) |
1人以上 |
| 損益の帰属 | 法人 |
| 責任制度 | 有限責任 |
| 向いているビジネス | 継続的・安定的ビジネスで、小中~大規模ビジネス |
| 業務執行 | 取締役会 |
| 設立費用 | 登録免許税15万/印紙税4万/定款認証5万/計24万円 |
| 報酬の支給 | 可 |
| 利益の分配 | 原則出資比率 に応じる |
| LLC | |
| 組織の形態 | 法人 |
| 構成員 (出資者) |
1人以上 |
| 損益の帰属 | 法人 |
| 責任制度 | 有限責任 |
| 向いているビジネス | 継続的・安定的ビジネスで、比較的小規模のビジネス |
| 株式会社への 組織変更 |
可能 |
| 業務執行 | 構成員全員(例外あり) |
| 設立費用 | 登録免許税6万円、印紙税4万円、計10万円 |
| 報酬の支給 | 可 |
| 利益の分配 | 出資比率に拘束されない |
| 民法上の組織 | |
| 組織の形態 | 組合(法人格なし) |
| 構成員 (出資者) |
2人以上 |
| 損益の帰属 | 組合の構成員 |
| 責任制度 | 無限責任 |
| 向いているビジネス | 組合事業によって組合員の事業を補完するような事業 |
| 株式会社への 組織変更 |
不可 |
| 業務執行 | 構成員全員 |
| 設立費用 | 原則 0円 |
| 報酬の支給 | 不可 |
| 利益の分配 | 出資比率に拘束されない |
| LLP | |
| 組織の形態 | 組合(法人格なし) |
| 構成員 (出資者) |
2人以上 |
| 損益の帰属 | 組合の構成員 |
| 責任制度 | 有限責任 |
| 向いているビジネス | ハイリスク・ハイリターンのビジネスや、全員参加型の組織 ゴーイングコンサーン型の事業には向かない |
| 株式会社への 組織変更 |
不可 |
| 業務執行 | 構成員全員 |
| 設立費用 | 登録免許税6万円のみ |
| 報酬の支給 | 不可 給与所得控除が使えないため、この点においては不利 |
| 利益の分配 | 出資比率に拘束されない 贈与税の可能性があるので慎重な対応が必要 |
※なお、LLPに関する詳細な税制についてはまだ決まっていません。税務に関する部分については、今村仁税理士事務所の私見です。ご注意ください。