これまで個人名で請求書が送られてきた取引先が、株式会社や有限会社に変わっていたという経験はないだろうか。特にここ2~3年の間に、そうした取引先の変化を経験した人は多いと思われる。
なぜかというと、2003年2月に中小企業挑戦支援法による「最低資本金規制の特例措置」が施行され、これを利用して会社を作る人が増えているからだ。この新しい制度では、株式会社は1000万円以上、有限会社なら300万円以上と定められている最低資本金規制の適用が5年間猶予されることが最大の特徴となっている。つまり、資本金が1円でも会社が作れるというわけだ。こうして作られた会社は、「確認株式会社」または「確認有限会社」として事業を行なえる。
こうした法律の改正により、今まで以上に会社が設立しやすくなったのが現在の状況だ。やはり個人事業で商売をするより会社組織で商売をした方が、対外的な信用度が高いということであろう。そして、2005年1月現在でこの確認株式会社や確認有限会社は2万社を突破して、現在も増加中である。
ただこの特例を利用して設立された法人は、設立の日から5年間を経過するまでに通常の株式会社や有限会社と同様に、資本金を1000万円、または300万円にする必要がある。もしそれができなければ、解散しなければならない。
これを聞くとやはりハードルは高いと思われるかもしれないが、実はこの規定がどうやらなくなりそうなのだ。これは2006年5月頃に施行予定の「新会社法」で明らかになるが、現行の有限会社がなくなって株式会社に一本化され、最低資本金規制そのものがなくなる予定だ。それ以外にも機関設計や株式のありかたなどが、従来からある制度から大幅に変更される予定である。
また創業に関連する動きとして、新しい組織形態である「有限責任事業組合(LLP:Limited Liability Partnership)」制度が創設され、2005年8月から施行されている。さらに「有限責任会社(LLC:Limited Liability Company)」も新会社法において規定される予定である。このように、最近になって会社にまつわる法律が急速に変化し始めている。
まずは、2006年5月頃施行予定の「新会社法」とは何か、といったところから話を始めていきたい。今まで「会社法」という名前のものは実は存在していなかったのだが、今回、商法第2編、有限会社法、商法特例法などが1つの法典にまとめられて「会社法」ができあがった。これが一般的に新会社法と呼ばれているものである。
この新会社法における基本方針は、以下のようになっている。
そして上記基本方針のもと、まず大枠として「現行の有限会社がなくなって株式会社に一本化される。さらに、最低資本金規制を廃止する」ことが挙げられている。つまり新法施行後は、株式会社しか作ることはできず、その株式会社は資本金1円から設立が可能ということである。
それでは、新法下の株式会社とはどういう組織なのか、また従来からある株式会社とどこが違うのかをチェックしよう。
まず設立時から見ていくと、資本金規制が撤廃されたことで、たとえ資本金が1円でも株式会社を設立できる。そして、従来の株式会社であれば、設立時に銀行から「(資本金)払込保管証明書」を発行してもらわないといけなかったが、資本規制の撤廃もあり通常の残高証明書でもよいことになった。これにより、設立手続き面でわずらわしかった作業が1つ減ったということになる。また、事後設立の場合に必要とされていた検査役の調査制度も廃止される予定である(事後設立とは、設立前より存在していた財産などを設立後2年以内に資本の5%以上にあたる対価で取得すること。この場合、例外を除いて裁判所が指定した検査役の検査が必要となる)。
次に新法下の株式会社における機関設計をみていくと、従来必須であった取締役会の設置が任意となったことが大きい。また従来は取締役3人と監査役が1人が必要だったが、販売や贈与など株式の譲渡に対して会社の承認が必要な「譲渡制限会社」では、定款に定めることで取締役1人でも株式会社を作れることになった。
もう1つ大きいのが、取締役や監査役の任期だ。従来、取締役であれば2年、監査役であれば4年と定められていたが、これも定款に定めることでいずれも10年まで伸ばせる。加えて取締役の責任について、故意または過失がなくても責任を負う「無過失責任」から、故意/過失があったときだけ責任を負う「過失責任」に変わる予定だ。これらの内容は、株式会社でも従来からある有限会社制度により近い制度を定款などで定めることで可能にしており、企業の機関設計がより柔軟になったと言える。
その他の改正点としては、株券の不発行が原則になった(以前は発行が原則)ことや、株式総会の普通決議の余剰金の分配がいつでも可能になった(ただし、純資産額が300万円未満の場合は分配不可)ことなどが挙げられる。
新会社法では、有限会社の制度が廃止されてすべて株式会社となるが、では既存の有限会社はどうなるのだろうか。
実は特に何もしなければ、特別な手続きなしで「特例有限会社(新法下の株式会社の1形態)」として存続することになる。株式会社にせず、特例有限会社を選択するメリットは以下のようになる。
現行の有限会社が選択できるもう1つの方法は、新法下の株式会社に商号を変更することである。新法下では、1円で株式会社がつくれるのだから、資本金を増加することなく株式会社になれるのだ。
冒頭で解説した確認有限会社でも同様で、有限会社のままでいたい場合には「特例有限会社」として、あるいは新法下の「株式会社」に変更することが可能である。
次回は、新しい組織形態である、LLPやLLCといった制度について、従来からある株式会社制度や民法上の組合などと何が違うのかを説明していきたい。