Kさんは製造業A社の情報システム部門でシステム運用を担当している。ある日、総務部からの「サーバルームで漏水があった」という知らせに、我を忘れて飛び出した。幸い漏水は小規模なもので、被害が出た機器はシステムの一部であった。しかし、ほっとしたのもつかの間、Kさんは殺到する苦情の電話に忙殺されることになった。「今日の5時までに請求書を処理しないといけないのに」「出張精算ができない!」とひっきりなしだ。運悪くサーバ担当者は夜勤明けで帰ってしまったので、Kさんにはわからないことだらけだ。上司からは「基幹システムを優先して復旧させてくれ」とせかされるが、基幹システムがどのサーバで動いていて、どのネットワークにつながっているのかわからない。そのため、当たりをつけて直していくしかないのだ。うちの管理は完璧と思ったのに、どうしてこんなことになったのだろう……
構成管理というと、設備の名称やIPアドレス、資産番号、管理者等を一覧にした表を思い浮べる方も多いかもしれません。しかし、これは資産管理あるいはインベントリ管理と呼ばれるもので、ITILの構成管理とはちょっと違います。
ITILは「ビジネスを支えるためのIT」という観点に立っています。従ってITILの構成管理では、単に個々のサーバやネットワーク機器のリストを作ることではなく、それらがどのように関連して業務を実現しているか、というシステム俯瞰図の作成を目的にしています。では、どのような手順でこの俯瞰図を作っていくかを見ていきましょう。
システムを構成するハードウェアやソフトウェア等は、ITILではCI(Configuration Item:構成アイテム)と呼ばれます。構成管理の最初のステップは、このCIのどこまでを管理対象とするかを決めることです。この管理範囲を「スコープ」と呼び、さらに管理の「広さ」と「深さ」という2つの方向に分かれます。システム全体を構成する要素のうち、たとえば、ハードウェアやソフトウェア、ネットワークなど管理対象の範囲が「広さ」になります。また、CIとしてルータを登録する場合、ルータ単体として登録するか、あるいはさらに細かくシャーシや電源ユニット、CPUといったモジュールにまで分割して管理するのかの範囲が「深さ」です。
広さを考える際に注意しなければいけないのは、システムの構成要素はハードウェアやソフトウェアだけではないということです。構成管理の目的は、業務を実現している各要素の関連を把握することにありますが、この要素にはマニュアル等のドキュメントや外部業者との保守契約、ITスタッフ、建物、電源設備、空調の要素もあります。これらのうちのいずれかが欠けても業務は継続できません。
また深さに関しては、たとえばネットワーク機器としてルータを登録する場合、CIの単位としてルータ単体でとどめてしまうと、ポート単位での接続関係が把握できません。しかしあまり細かく分けすぎると管理しきれなくなる恐れがあります。管理スタッフの人数、構成管理ツールの有無、システムの規模や複雑さを考慮して、適切なスコープを設定することが必要になります。