「モチベーション」とは、仕事に対する動機づけ、やる気、意欲のこと。それに対して「モチベーション・クライシス」とは、働く意欲の危機という意味です。「最近、どうもやる気が出なくて……」という方は、今一度、自分を振り返ってどうすれば意欲が持てるかを考えてみましょう。
アメリカのケース・ウェスタン・リザーブ大学大学の心理学教授であるフレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg) が唱えた「モチベーション理論」というものを、まず紹介したいと思います。ハーズバーグは、人間のモチベーションについて研究し、人のやる気の理由を「衛生要因」と「動機づけ要因」とに分類しています。
ハーズバーグは自身の研究の中で、ピッツバークのエンジニアと会計係200人を対象にアンケート調査を実施し、「仕事をしていて、どういう場面で特に良い気分や悪い気分になるか」を自己分析させ、その結果を報告しています。
この調査で、満足感につながるものは、達成感、人から認められること、仕事の性質そのものへの充足感、責任感、進歩などであることがわかりました。
一方、不満につながるものは、企業の方針、職場環境、給与、地位、雇用の保証に関連することが多いという結果が出ました。
この研究成果を受けて、後の著書「仕事と人間性」では、「人間には2種類の欲求、つまり苦痛や不満を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長したり自己実現をしたいなどの人間的が欲求がある。そして、これらの欲求の引き金となるもの、つまり不満の種となる要因(たとえば職場環境、給与など)は衛生要因、満足を与え、やる気を起こさせる要因(たとえば他人からの評価など)は動機づけ要因である」と記しています。
また、さらにハーズバーグは「不満へとつながってしまう衛生要因を克服して、一時的な苦痛から自分を解放しても、もっと深い満足感、つまり動機づけ要因がなければ、すぐにその開放感も消えてしまう」とも示唆しています。
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| 図1●衛生要因と動機づけ要因 |
では、この衛生要因と動機づけ要因を、具体的に自分の身に引き寄せて考えてみましょう。たとえば仮にあなたが今、「やる気が出ない」と感じているとします。そこで自分の現在の衛生要因、つまり不満の原因となっているものについて、一度紙に書き出してみます。
■衛生要因
1.風邪気味で体調が冴えないから
2.顧客から言われる仕様変更に何度も対応しなくてはいかなくて、憂鬱だから
3.上司からミスを指摘されて怒られ、自信がなくなったから
では、この3つについて阻害要因を抽出してみましょう。
[阻害要因]
1.仕事が忙しくて医者に診てもらう暇がない
2.きちんとした請負契約書を作らずに進んでしまい、仕様変更がある場合の対応を初期の段階で話し合っていなかった。
3.上司に怒られたときに、頭の中が真っ白になってしまい、ミスへの対応についてはっきりと理解できなかった
次に、解決策を考えていきます。
[解決策]
1.体調が悪いことを周囲に話して理解してもらい、医者に行く時間を捻出する
2.今後は請負契約書を取り交わして、仕様変更がある場合は、納期延長と別途費用がかかることを、契約書に盛り込む
3.自分自身を納得させるため、上司に「怒られた理由と解決策」について再度確認する
では、次に動機づけ要因について考えてみましょう。自分の満足につながるものは何かを書き出し、そしてそれらは現在満たされているのか分析します。また、動機づけ要因は衛生要因よりメンタルなものが多くなります。
■動機づけ要因
1.仕事の達成感
2.仕事そのものの面白さ
3.自分を評価してもらえる仕事への責任、昇進、昇給といった要素
これら3つの要因を書き出した場合、たとえば仕事の達成感がなければ、自分は満足できないのだと分かります。そしてここから「現在は達成感はある」と考えられた人は、つまり動機づけ要因が満たされていることになります。たとえひとつでも「満たせれていない」と答えた人は、その阻害要因がどこにあるかを考えてみましょう。
[阻害要因]
1.自分で努力してコツコツ仕事を積み上げても、誰にも評価されないために達成感を感じない
2.なんのためにこのシステム開発が必要なのか、目的がわからないために迷いが多く、面白みを感じない
3.人事の査定評価が自分が思っていた以上に低く、納得がいかない。
[解決策]
1.「これだけの仕事をこれだけの期間で遂行した」という事実を明らかにし、他の人にも理解してもらうよう努める
2.仕事に着手する前に、必ず会社にとって、部署にとって、顧客にとって「なんのために」この仕事が必要なのか、また自分が携わる仕事は仕事の全体像にとって、どこの部分を占めるのかを理解する
3.査定評価について人事担当に評価の詳細を聞き、何が不足しているのか、自分自身に起因する問題点を明らかにする
いかがでしたでしょうか? 解決のためにすぐにやれること、やれないことがあると思います。いっぺんにやる必要はありません。ひとつひとつできる範囲からやっていけばいいのです。衛生要因、動機づけ要因それぞれの阻害要因を明らかにして、解決に向けて動き出すと、仕事への意欲が湧いてきます
では次に、自分が上司の立場で部下を指導していくときは、どうすべきかを紹介しましょう。
(株)リンクアンドモチベーション 代表取締役 小笹芳央氏の著書「モチベーション・マネジメント」(PHP研究所)の中に、大変興味深い一節があります。
『同じ仕事を部下に与えるにしても、「石を積み上げてほしい」というより、「要塞を作るために、石を積み上げてほしい」というほうが、部下のモチベーションが高まることは言うまでもない(本文P53より引用)』
確かにゴール(要塞を作る)を最初から語るほうが、工程(石を積み上げる)への動機づけがはっきりしますよね。この「何のためにそれをやるか」を明確にしていくことが大切なのです。
また、同書では「最強の組織はモチベーションマネージャーが創る」としており、モチベーションを高める管理職になるためには「影響力」と「信頼性」を持つことが大切であるとしています。
たとえば、上司が目標を明確にしたり、責任を委譲して部下の権限を拡大したりすることによって、働く人の職務が充実した企業は、利益拡大も含め、大きな恩恵を手に入れるようになったと言います。 これらが部下の「モチベーションアップ」につながり、「仕事の改善」に役立つことは言うまでもありません。ぜひとも「モチベーション・クライシス」を克服して、次のキャリアのステージに進んでください。
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