SEが、陥りがちな「ふれあい恐怖症候群」。人との適切な距離が保てず、表面的には仕事をこなすことができても、深い人間関係が築くことができず、大きなミスにつながってしまうことも……。自分と相手との間にできる心理的空間「パーソナル・スペース」を理解して、コミュニケーション・スキルを磨いていきましょう。
「パーソナル・スペース」とは、自分と相手との間にできる心理的空間のことです。たとえば、映画を観に行った時を考えてみてましょう。通常、見知らぬ人が隣の席に座っていた場合、その人とは1つか2つ、席を開けて座りますよね。相手の情報が皆無の状態で、至近距離にきてしまうと、それはそのまま危険に近づくことを意味するからです。
誰しも自ら危害を加えられることを望みません。「このままでは、相手に捕まってしまう」という距離を人は無意識のうちに計っているのです。そしてすぐに逃げられる、もしくは自分が防御できる「心の余裕」としての距離を置こうとするのです。それが「パーソナル・スペース」、つまりお互いの身体の位置、空間として現れるのです。
日本人は外国人よりもパーソナル・スペースを大きく(広く)取ると言われています。なぜなら、日本人は外国人と違って、日常的に握手をしたり、相手の身体に触れるなどのボディ・ランゲージを気軽に行なう文化・風習がありません。どちらかというと、照れや気恥ずかしさが先に立って、なかなか心情を身体的に表現することができないのではないでしょうか。相手に気軽にタッチすると、「馴れ馴れしい」との印象を与えることのほうが多く、特に日本の職場は、上下関係にうるさいので、かえってそのような行為が摩擦を生じることにもなりがちです。
また、握手をするよりも、むしろお辞儀をするほうが、相手に礼を尽くすとしてきた日本人独自の文化的な歴史があります。そもそも江戸時代には、相手に手をとられることは禁物だったのです。「手の内を見せる」という言葉がありますが、手の平の内側、すなわち抜き打ちの刀の方向性を見抜かれることと同義語であり、武士として恥だとされていました。その結果、視線を合わせずに頭を下げる習慣が生まれました。相手の目をみないでお辞儀をするのはその当時の名残りの習慣なのです。
ビジネスの場面を思い浮かべて、このパーソナル・スペースについて考えてみましょう。たとえば商談を成功させるには、「相手の懐に入る」というたとえをよく使いますよね。まず自分自身の存在を、相手の距離に入れてもらわなければなりません。
商談で話がだんだん具体的になり、契約段階まで進もうとするとき、お互いが身を「乗り出す」ようにして話し合うようになってきます。お互いの「間」が心を許すことによって、知らず知らずに縮まってくるからです。よく「ひざ詰め談判」と言いますが、お互いの距離を縮めて認め合う手法と言えるでしょう。
では、相手に近づけば商談は成功するのかというと、必ずしもそうとは言えません。先の外国人と日本人の文化的な違いでも触れましたが、必要以上に急接近すると「馴れ馴れしい」ととられたり、「しつこい」と相手に敬遠されたりします。
さて、仕事上のやりとりや挨拶を交わす程度ならば問題なくこなすことができるのですが、それ以上の深い人間関係が築けない「ふれあい恐怖症候群」と呼ばれる人たちが増えていると言います。なぜ、これが問題になってきたかというと、ふれあい恐怖症候群の人は、一見、表面的な人間関係には問題がないように見えるのですが、突発的なトラブルが起こったときに同僚や上司に助けを求めることができず、臨機応変な対応ができないからです。その結果、初期のうちに問題解決ができたことも、手遅れになってしまうケースもあります。
特にSEは要注意! 仕事柄、メールで何もかもコミュニケーションを済ませがちなので、1対1の対面コミュニケーションを極端に避けたり、上司や同僚からランチや飲み会に誘われてもストレスを感じてしまうこともあります。
これらのストレスは、うまく相手と自分との距離がとれないことが原因です。「こんなことを言うと、相手に不快感を与えるのでは?」と気を遣いすぎたり、「どうせ、自分が何を話しても相手は理解してくれないだろう」と最初から話すことを諦めたり、「自分の話で、きっと相手はつまらない思いをするに違いない」と自分を責めたりしていませんか? そんな時は、自分の行動だけに意識を集中せず、周りがその相手にどのような話し方をしているかを参考にして、行動に移してみることをお勧めします。
では、ここでドイツの哲学者・ショーペンハウアーの「ヤマアラシのジレンマ」という寓話を紹介しましょう。
冬のある寒い日、2匹のヤマアラシがいました。寒いので2匹は体を寄せ合って暖め合いました。そのうち、お互いの針が当たって痛くなり、離れました。すると、今度は寒くて仕方ありません。近づくとお互いに傷つけあうし、離れると寒い。それを繰り返すうちに、ちょうど良い距離を保つようになりました。
この寓話は、お互いに傷つかない距離を保とうとする対人関係のたとえとして、しばしば引用されます。傷つけ合うことを恐れてばかりいては、お互いの心の距離を縮めることはできないのです。相手との適切な距離を保つことは、自分も相手も尊重することです。ぜひ、そのことを頭において、コミュニケーション・スキルを磨き、今後のキャリア形成に役立ててください。
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